第281話これがいつもの日常

 たまに窓を開けると、なにも音がしないときがある。


 夕日が沈みかけた、しずかな午後のことだ。


 秋ごろの今日は澄んだ青色の空。


 雲は一つとしてなく、斜陽はやわらかいオレンジ色。


 人の会話や車の通る音、ネコの鳴き声一つとして聞こえない。


 そんな静かな時間帯。


 まれに訪れるこのひとときが、僕にとっては心地いい。


 世界に一人だけになったような特別な気分になれる。


 地球をひとり占めしたような、そんなかんじ。


 なにをするでもない。


 ただ、窓を開けて空気を感じるだけだ。


 時間の垂れ流し。


 沈黙を享受するだけの贅沢な時間。


 そんなとき、向かいの家の窓が勢いよく開く。


 顔を出すなり君は、「ヒマだから遊びに行っていい?」と聞いてくる。


 というか、言いながらすでに窓を飛び越え、僕の部屋に靴を持って入ってきた。


 たまに窓を開けると、なにも音がしないときがある。


 そんなひとときも、君の一声でにぎやかに染まっていく。

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