第88話 急がば回れ、待てば海路の日和あり
『さて、少しだけ急がないとな……』
『ん、私達は
後部座席から聞こえるレヴィアの指摘通り、直線的な動きで戦域の平原地帯を目指すゼファルス領軍と比べ、側面からの奇襲を画策している
それに加えて並行世界に
『どわぁあッ』
『きゃあ!?』
案の定、隊列後方から叙任したばかりの新任騎士と魔導士の焦り声が念話装置越しに聞こえ、騎体専用の外套を纏うベルフェゴールを振り向かせると、木の根に
何とか踏み留まってはいたが、転倒の仕方によっては
そんな下手をしたら死傷者も生じる事態に対して、神経質な副団長が冷静さを装ったままぶち切れる。
「貴様ら…… すぐにそこから降りろ、私が直々に修正してやる」
『ひえッ、すみません、ライゼス様』
『え゛、あたしもですか?』
至極真っ当な意見に沈黙が降りた
『細かい話は野営の際にしてくれ、今は行軍中だ』
「クロード王がそう言うならば従おう、何かしらの罰則は与えるがな」
『… ゼノス団長、余りに手厳しい内容だったら調整を頼んでも?』
『ははっ、任せて貰って構わんよ』
どうせいつもの事だと剛毅に笑う声を受け、
その際、“ここで騎士王が躓いたら恥ずかし過ぎるな” と、ふと脳裏に浮かんだ思考が騎体の人工筋肉に内包される神経節を伝い、一緒に操縦席へ収まっているレヴィアにも流れていく。
『うぅ、それは笑えないよぅ、というか私を巻き込まないでね?』
『おいおい、つれない事を言うなよ、怒られる時も一蓮托生だろ』
やや砕けた態度で心配そうな赤毛の少女に軽口を叩けども、こんなところで従ってくれている兵卒を損耗させるなど論外であり、下敷きにして殉死者など出そうものなら国元の遺族に合わせる顔が無い。
同様の事柄を他の騎士達も考えたのか、特に露払いを務めるディノの
(まぁ、気が引き締まったと思っておこう)
その観点から言えばライゼスの叱責も効果があったのだろうと強引に結論付け、枝葉の
遠征部隊の面々が動きを止める中で、方々に散っていた二人一組の斥候兵達からの報告を受け、音量を適度に絞った外部拡声器からディノの声が響く。
『ニーナ卿の助言通り、この先で中型以上の魔物を多数発見したそうです』
『彼らの生息域だからこそ、敵勢の目を欺けますけど私達も注意が必要ですね』
不特定多数に呼び掛けるためか、普段の俺に対するよりも丁寧な言葉遣いとなった藍髪の騎士に続き、騎体専属の魔導士であるリーゼからも意見が添えられ、
「多少の知性がある魔獣なら、
今も補助兵装の短剣でスヴェルS型の腰元に張り付いた
『こんな感触まで正確にトレースしてくれなくても……』
『うぅ、昆虫は苦手です、ぶよぶよしています』
どうやら騎体との感覚共有が苦痛らしい少女達の愚痴を聞き流して、徒歩の兵卒らを護りつつ一刻半ほども森の深部を縦断すれば、周囲の景色が心なしか変化していく。
さらに少し進むと反対側の浅い部分に抜ける事ができたので、日の沈み具合など考慮した上で野営地の構築に取り掛かった。
その
「飲む?」
「あぁ、貰おう」
「未だに確たる大義は見えないが、部下を殺された私怨はある」
「むぅ、そういうの
「分かっているさ、単に帝国兵同士で
数ヶ月前、女狐ことニーナ・ヴァレルを暗殺するべく敢行されたゼファルス領への強襲以降、事態は彼の手が届かない場所で引き返せないまでに進み、もはや内乱の様相を
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