第24話 これが私の可愛いベルフェゴールよ
他方で招待された
丁度、皆が食材の準備などで活発に動く夕暮れ前もあって、騎体の高さから疑似眼球を通して見える
『うちの王都エイジアよりも確実に栄えているな……』
『うぅ~、だからそれは前に言ったよね?』
やや悔しそうなレヴィアの唸り声を聞き流しつつ、視線を前方に向ければ街の規模に比して、釣り合わない程に小さな城が立っていた。
『居城の大きさだけ勝っているのもな……』
『見栄張りに思ってしまうかい、クロード? 君らしいな』
『でも兄様、国の城なのですから威厳は必要なのです』
珍しくロイドの意見に否定的なエレイアは城郭の規模が国力を象徴すると言うが、小城より併設された騎体工房の方が立派なあたり、領主ニーナの質実剛健さに感嘆を覚える。
『城の一部を取り壊して建てたのか…… それもありだな』
『むぅッ、クロード様、私の話を聞いていませんでしたね』
『いや、名より実を取るのも良いかと、土地が無いからな』
十分検討に値すると考えて、工房の煙突から吐き出されている黒煙を眺めた。確か自国のそれにも煙突があり、蒸気機関が設置されて加工機械などの動力源になっていた事を思い出す。
(まぁ、地球の火力発電所とか、蒸気機関の理屈でタービンを動かしているからな……)
以外と実用性は高いのだろうと思い至っている内に通りを抜け、暫時の後に駐騎場へ辿り着く。
其処には艶やかな黒髪と豊満な身体つきをした、俺と同年代に感じられる若い女性が数名の騎士とクラウソラス二騎を従えて立ち、リゼルの訪問団を待ち構えていた。
「初めまして、若き騎士王…… 私がゼファルス辺境伯ニーナ・ヴァレルよ」
騎体の疑似眼球で見た限りは分からなかったが、少々気の強そうな印象を受けるドレス姿の淑女が手を差し述べた。
(………… 流石に大丈夫だろう)
警戒は一瞬に留め、気負う事無く右掌で色白な手を握り、西洋式の挨拶を交わす。
「私の設計した騎体の乗り心地はどう?」
「悪くない、感覚まで共有するのはどうかと思うがな」
「ん、現状だと機体の操作伝達と感覚は不可分だから…… ところで例のモノを見せて欲しいの。
可愛くねだるような態度で聞かされた言葉に頷き、先ほどから
「ふむ、アルド騎兵長」
「はっ、欠片を積んだ荷馬車を前へ出せッ」
「「了解しました」」
御者を務める兵卒の声が返り、駐騎場の脇に移動していた荷馬車がゆっくりと近づいて、俺達の眼前で止まる。
「これが精霊門の組成物…… 精霊石」
「そういう名称なのか?」
「えぇ、私が名付けたのよ」
つまり、正式名称では無いのか…… と思いながらも確かめておくべき事を問う。
「一体何なんだ、これは?」
「詳しい事は後で話すから、先に騎体関連の用件を済ませておきましょう」
「あぁ、持ってきた
「
何気なしにそう言った彼女が護衛を連れて工房へ歩き始めたので、アルド騎兵長とディノ達にこの場を任せ、第二世代の
利便性の都合上、駐騎場と工房は近い位置関係になるため、
(ねぇ、クロード…… 騎体の数がリゼルと変らない気がするよぅ)
(何か事情があるんだろう)
小声でコッソリと話し掛けてきたレヴィアに短く返したものの、しっかりと聞こえていたのか、俺達の先を歩くニーナが説明してくれる。
「“滅びの
「もうその時点で太刀打ちできないね、クロード王」
「そうだな……」
思わず零したロイドの言葉に頷き、敵に回せば厄介だと警戒を深めるも、彼女はさらりと否定の言葉を返す。
「そんな事は無いわよ、前線の騎体は国土防衛上の観点から動かせないし、自領での生産も皇統派の反感を買うからこれ以上は難しいの」
若干、自嘲気味な声音で語った彼女と取り巻きの騎士達が足を止め、工房の最奥に固定された黒銀の騎体を眺めた。
「これがそちらに引き渡す内の一騎、私の可愛いベルフェゴールよ」
可愛いどころか凶悪な印象の騎体をよく見れば、身体の線が細めで装甲も肝心な部分以外は薄めだ。
その代わりに瞬間的な動作速度と左剛腕の馬力が感じられるという…… 有り体に言えば、非常に扱いづらそうな最新鋭騎と引き合わされてしまった。
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