第4話 迷いは全て刃の後ろに置け!
「私達が属するような小国だと、ゼファルス領単独よりも国力が無かったり……」
「世知辛い話だな」
「うぅ、でも同じような国も大陸には多いんだよぅ…… そうですよね、団長!」
「あぁ、その中でも我らは
以後、俺が扱う予定のクラウソラス四番騎を整備しているのも
(…… 身をもって経験している最中だしな)
異形の怪物相手に
ひとつしか無い命が大切なのは当たり前として、
「“迷いは全て
突き付けられた現状に戸惑っている限り、ご先祖様の境地には程遠く…… 夕焼けになり始めた空の下で重い溜息を吐き出す。
「先が見通せなくて不安だろうけど…… 多分、何とかなるよ。少なくとも遠征中はパートナーになる訳だから、悩みや困りごとがあったら教えてね?」
「頼らせてもらう、ありがとう」
少し照れながらも
「ん、戦闘が終われば私たちは休憩が仕事だから、
「何か問題があるのか?」
「一応、騎体搭乗者にはペアごとに天幕が割り当てられてるんだけど……」
要するに彼女とディノの天幕であって、彼が騎体を降りた今は扱いが曖昧になっている。基本的に天幕は高価かつ
ともあれ、俺がクラウソラス四番騎の操者に割り当てられた天幕へお邪魔して良いのかという事だが……
「ディノの荷物は私と義父の天幕へ移し替えましたので問題ないですよ、レヴィア」
「そうなの? ありがとう、フィーネ」
「いえ、礼には及びません。そうですよね、義父様」
「二人とも、あいつは暫く俺が預かって鍛え直す。気兼ねなく天幕を使うと良い」
ばしばしと大きな掌で無遠慮に背中を叩いた団長殿が義娘を伴い、軍議に使われる事も想定した一番大きい天幕へと踵を返す。
「じゃあ、私達もいこっか?」
「そうだな」
とは言ったものの、あまり広くもない天幕に可憐な少女と籠もるというのは何やら
「ん?」
レヴィア自身は軍属の魔導士だけあって抵抗がないのか、さっさと中に入って振り返り、疑問の視線を向けてきた。
(郷に入っては郷に従えという事か)
相手が特に意識していない状況で少し年上である自身がどぎまぎするのも、何やら情けない想いがあるため、下世話な感情を斬り捨てて内側に踏み込む。
森林地帯の風景に溶け込むようなモスグリーンの天幕の中は然したる物もなく、毛布の類があるだけだ。
行軍中なので当たり前かと思い直して端っこに腰を下ろせば、積み上げていた荷物を漁っていたレヴィアが陶器のボトルを取り出し、二つの木製マグに琥珀色の液体を注ぐ。芳香から判断すると林檎の類を発酵させたシードルだろう。
(こっちに林檎があるか知らないけどな)
困ったものだと思いつつも差し出された木製マグを受け取り、飲む前に匂いを確かめる。
「林檎酒か?」
「うん、クロード達の世界と此処って“因果の鎖”?で繋がっているらしいから、食べ物とかも割と同じなの」
有難い事実に感謝して手にした木製マグを傾け、此処に来て初めての液体で喉を潤して人心地着く。
「…… もう知っているだろうけど、私は火と風の魔導士レヴィア・ルミアス、改めて宜しく」
「此方も改めて……
狭い天幕の中で向き合い、お互いにぺこりと頭を下げ合う。その後は夕食までの時間、彼女を質問攻めにして現状の把握に務めた。
「うぅ、貴方って意外と細かいのね……」
「いや、念には念を押しておくのが常識だろう」
情報は質にもよるが、多ければ多いほど選択肢が拡充されていくため、
彼女の尊い犠牲により、俺を拾ってくれた連中が“滅びの
それに先程も少し聞いたが、件の
因みにゼノス団長が言うところの女狐殿は役立つ
(ま、当面はリゼル騎士団の厄介になるしか選択肢は無いし、精霊門の破壊に尽力するとしよう。あんまり、骨肉を切る感触は好きになりたくないんだがな……)
意図せず、現代社会で無為に磨き上げてきた合戦剣術が役に立つ機会を得て、殺し殺されの状況であっても僅かに胸が躍る自身を戒め、迷い込んだ異界での初日は過ぎていった。
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