戦禍切り裂け、明日への剣聖 ⚔ The Knight Wizards!!

shiba

騎士王への道

第1話 生まれる時代を間違えたサムライ、大地に立つ

 かつて世界は竜族の物であり、大地は地竜が、大空は飛竜が支配していた。栄華を極めて我がもの顔で世界を席巻していた彼らは天の怒りに触れ、その数を減らして支配者の座から陥落したという。


 竜族が排除された事により頭角を現したのは巨人族であり、大地を踏み鳴らした彼らは巨大都市群を建設して高度な文明を築いたものの、やはり天意に背いたとされて滅亡に追い込まれたと古文書には記されていた。


 その後、自由気侭な魔獣達の時代を経て様々な亜人種の隆盛が起こり、現状で最も繁栄を誇るのは汎用性に優れた人族である。


 ただ、そんな彼らもどこかで選択を間違えたのか、それとも世界の均衡を担う何かの意思によるものなのか、徐々に理不尽な異形達の進攻を受けていた……


『ディノ、無理しちゃ駄目ッ』

『…… ここで止めないと、兵達の被害がまた増えるだろ!』


 全高十数メートルの巨大騎士クラウソラスの操者席にて、人工筋肉に埋もれた藍髪の青年が自騎に無骨な鉄剣を構えさせる。


 ただ、先ほど同種の大型恐竜ディサウルスを討ち取った際の損害は大きく、騎体の一部からは血液代わりの赤い魔導液が漏れており、もはや限界を迎えている事は明白だ。


 先程、同乗する幼馴染の少女が止めたのも無理のない話なのだが……


 巨大騎士と大型種に分類される異形を避けるような範囲では、武装した自国の兵士達と小型恐竜や魔獣が攻防を繰り広げており、どう考えても無責任に後退できる場面では無い。


『レヴィア、魔力炉の出力を上げてくれッ』

『もうッ、人の話を聞いてよ!』


 ここ数年に及ぶ “滅びの刻楷きざはし”と呼ばれる異形達との戦いの中で、突如出現した英知の結晶である巨大騎士は動力制御と魔法を担う魔導士、騎体を操る騎士の二人で動かすものとなっている。


 つまりは一蓮托生なので溜息を吐きつつも、レヴィアは身体に纏わり付く人工筋肉を経由させて騎体の魔力炉に火を灯す。


『せいりゃああッ』

「ウガアァアァァア!」


 気合一閃、踏み込んで脇構えから逆袈裟の一撃を繰り出すも、僅かな差で大型恐竜の鋭い爪により受け止められ、旋回しながら振るわれた尻尾を頭部に叩き込まれてしまう。


『ッ、うああぁ!』


 騎体に深く一体化している騎士は感覚すらも共有しているため、重い衝撃を頭に受けたディノの意識が飛び、クラウソラスが仰向けに倒れて大きな音を鳴らした。


『ちょっと、ディノ、しっかりなさいッ』

『う、うぁあ……』


 呼び掛けにも呻き声が返るだけで相棒の意識が戻る様子は無く、レヴィアは深刻な決断を迫られる。騎体の疑似眼球に投影された景色の中では勝利を確信したディサウルスが咆哮を上げ、弾き飛ばされた此方に一歩を踏み出してきたところだ。


(これは…… もう無理だよね)


 ぶるりと身体を震わせながらも、彼女は負傷した騎士の強制転送を始める。


 自国に配備されて間もない巨大騎士ナイトウィザードを自在に動かせる水準まで達した適性者は希少で、もしもの時に可能ならば魔導士が備えられた短距離転移の魔封石を用い、優先的に専属騎士を脱出させる義務があった。


『え゛、嘘…… 魔力漏れ? 魔封石にひびがッ』


 思わず祈るように閉じた瞼越しに眩い光が奔って幼馴染の気配は消えたものの、残された魔導士用の魔封石を起動させる余裕は無く、恐竜の大顎が胸部操縦席へと落ちてくる。


『ディノ、元気で……』

『なッ、うおおおぉ!?』


 諦めて呟いた直後、レヴィアの脳裏に知らない誰かの声が響き、騎士を逃がして動かない筈のクラウソラスが真横に転がって、巨大な恐竜の噛みつきを躱す。


『ッ、何なの!?』


 騎体の人工筋肉に埋もれているが故に相手を視認できないが、魔力回路を通じて確かにディノとは異なる存在をレヴィアは感じていた。


 不可思議な事にその相手は騎体との親和性が良いらしく、ダメージを誤魔化しながら器用に繰り、ディサウルスから距離を取って後方に飛び起きる。


『ぐぅッ、身体が巨人になっているだと!?』

「グルァアァ!!」


 意味不明な状況で迫りくる恐竜に辟易しつつも、は振り下ろされた右前肢を反射的に鉄剣で斬り上げて切断する。


 生々しい骨肉を断つ感触に一瞬だけ吐き気を覚えたが、実家の剣道場で何千、何万回も繰り返して体に染み付いた動作に従い、返す刃にて襲ってきた相手の胸骨ごと心臓を袈裟に断つ。


『え!?』

『ッ、殺してしまったか……』


 人間、多少の大きさの生き物を仕留めれば心にくるものがあるようで…… 思い悩もうとしたところに、間髪入れず別個体の恐竜が涎を撒き散らして突っ込んできた。


『感傷にくらい浸らせてくれッ』


 悪態を吐いて躱しながらも、すれ違いざまの紫電一閃にて喉元を深く切り裂けば、遅れて背後から巨躯が倒れ込む轟音が響いてくる。


「ギィイ、ア……ァッ」

『大型種の異形二体を一瞬で……』


「好機だッ、ここで一気に押し戻す! 魔術師隊、砲撃ッ!」

「「「おぉおおおおッ!!」」」


 近辺で戦っていた兵士達が喊声かんせいを上げ、大型種を失って統制を乱した小型種の恐竜や魔獣たちに火球や風刃を浴びせ、猛攻撃を仕掛けて駆逐していった。


「………… 魔法?」

「ねぇ、貴方…… 誰なの?」


斑目まだらめ蔵人くろうど……」


 先程から聞こえていた相手の言語は身に覚えが無くとも、何故か脳裏にしっかりと刻まれており、文法構造含めて理解できていたので此方こちらもその言葉で素直に名乗った。

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