第17章「罪の罰」その6


自分の席に戻った僕はふてくされたように、雑に椅子を引いて座った。


最近になって、自分にできることよりもできないことの方が多いことに気づいた。


できないことで勝負しても仕方がない、僕は誰かを悩みを解決できるほどの経験も器量もない。


だから勉強に打ち込んでいた、これさえやっていれば学生の本分を果たすことができる。


次の時間の化学の授業に向けて、教科書をパラパラと開いた。


そしていつ使うかもわからない化学式や記号を覚えようとしている。


窓と窓の隙間から入った生温なまぬるい秋風が少し肌寒く感じて、冬の訪れを今か今かと待っているように思える。



「ゆっくりでいいから、羽塚くんが誰かを幸せにできることを信じて」



ふと、文化祭の時に言われた平木の言葉を思い出した。


僕が本当に誰かを幸せにすることにできるのだろうか。


別に人に嫌われるような過去はなかった。


でも自分が他人のために何かやってきたことがあるのか、と問われるとおそらくないんだ。


目の前のハードルを越えることに必死で誰かのために頑張ろうと思えなかった。


としの重ねていくにつれて、そのハードルが高くなって、もうくぐってやろうかとさえ思う。



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