第14章「予定外の予定」その7


ご飯を三杯食べている僕を母は気にも止めず、


妹の方に注意を向けていた。


「彩、勉強は進んでるの?」


「まぁたぶん。この前の模試はB判定だったよ」


受験期にその言葉はダメだろうと思っていたが、


さすがに慣れているだけあって冷静な返しだ。


ここで話は終わるかと思いきや、さすが母親だ。


思春期の娘にはどうしても突っかかりたくなるらしい。まだ何か言う様子だった。


「もしわからないところがあったら、祐に聞きなさい」


さすがにこの言葉には驚いた。


口に入れたばかりの白米を戻しかけるところだった。


「なんで僕なんだよ」


「同じ高校受けるんだから、経験者に聞くのが一番でしょ?あんただって一応受かったんだから」


褒めてるのか貶してるのかわからなかったが、その理屈が正しいことはわかる。


けど納得はできない。


年が一つしか離れていない思春期の兄と妹の仲なんて、


倦怠期を迎えた夫婦より険悪な関係だと思う。


「いいよ、別に。お兄ちゃんも学校の勉強で忙しいだろうし」


表情一つ変えずに箸を進める、妹が放った言葉に僕は耳を疑った。


熱でもあるのか?それとも男でもできたのか?


そういえばこの前の父と母の旅行の時もそうだった。


受験を通して大人になったということか。


学校の担任やクラスメイト、両親、そして僕が受かったこと、その圧力が圧し掛かるこの時期の辛さはよく知っている。


自分の無力さを痛感して、怒りやストレスを他人にぶつけてしまうはずなのに。


食卓では妹の彩はいつも携帯とにらめっこしているようで、僕はそんな妹を心の奥底で馬鹿にしていた。


でもさっきの言葉のせいで、自分の情けなさと罪悪感で胸が苦しくなった。





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