第6章「西山皐月」その3


汗にまみれながらもこの状態で六限まで終えることができた。


今すぐにでも家に帰ってシャワーを浴びたいという願望を秘めて


やっと帰れると思い安堵していたが


今日の放課後のホームルームは延長戦の兆しが見えたのでがっかりした。


というのは、体育祭まであと三週間足らずなのだ。


日程や準備などが着々と決まり、個人の競技種目も二日前に決めたのだが、


体育祭の大取でもあるクラスの対抗リレーだけは


誰が出場するか男女ともにあと一名が未だに決まっておらず、


どうやら今日までに提出しなければならないらしい。


これは一組から六組までクラスの代表四名が各組の威信をかけて行われる種目で


このリレーの優勝組はトロフィーが贈呈され、その後の打ち上げも大いに盛り上がるそうだ。


しかも他組を牽制して文化祭を制することも可能になる。


いわばこの対抗リレーはこの先のクラスの優劣を決める


生存競争の初戦なのだ(※すべて秋山先生の個人的な見解)。



学級委員の新田と西山が教壇に立って、立候補する人は挙手するように言ったが


いくら待とうが周囲を見渡しても自ら進んで手を上げる奴は誰もいない。


暑さと汗のせいでわずか三分足らずの沈黙が僕の神経を逆なでさせた。


いつもなら申し訳ない気持ちになるというのに。


誰でもいいから早く手を上げろよ、と願望からただの八つ当たりになっていた。


でも『誰でもいいから』には僕は含まれていない。


自分勝手だと思われるだろうが、これにはわけがあるのだ。


というのも僕はこのリレーの走者にふさわしくないんだ。


なぜなら僕は帰宅部なのだから。

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