第2章「悩み部屋」その10
「まぁ確かに。」
「今私たちが習っている歴史もそう。正しいという保障はどこにもない。
人間は書物や遺跡から歴史を考察するようになったけど、
でもその書物や遺跡が全て発見されたわけではないし、
事実が権力者にとって不都合なものなら抹消された可能性が大いにある。
それに書物とは人が書き記したもの。
人である以上、その人の主観が混じっている可能性も捨てきれない。」
凄いな...。
ついこないだまで中学生だった女の子とは思えないな。
しかし…なるほど。
彼女の意見に僕はなぜかおとなしくなっていた。
過去の経験を思い出していたからだ。
あれはそう、小学校の運動会の行進の時だ。
生徒はグランドに入場する際、クラス団体で軍隊のように行進されられるのだ。
順番は身長順なので、僕の身長は真ん中あたりだったから、
周囲の人は僕への意識などほとんど皆無だっただろう。
たいてい注意が向くのは、先頭でクラス別の旗を持った男子の体育委員だろう。
そりゃそうだ。誰だって、馬鹿みたいに同じ歩き方をする小学生よりも、
一人大きな旗を持つ少年に目を向けるのは当然だ。
別に悲しいことじゃない。
ただ、僕は先生という子どもの鑑のために一様に練習し、一様に疑問を持った。
なぜみんなに合わさなければならないかもわからないことを
口にしてはいけないのか。
なぜみんなと合わせることがそんなに大人を喜ばせるのか、
その訳を僕は照らされる猛暑の中、
半袖無地白シャツを体にぶらさげながら、ずっと考えていた。
おそらく今も…。
「羽塚くん、どうしたの?」
「ごめん、ちょっと考え事。…そうか。そう言われると納得しちゃうな。」
「はぁ、あなたって、時々違うところに行っちゃうのね。」
「どういうこと?」
「今もそうだけど、あなた考え事している時、すごく遠いところを見ている気がするの。
遠いってのは、物理的じゃなくて、もっとこう昔とか先のこと。」
当たっている気がする。
「ごめんなさい、失礼だったわね。」
「急にどうした?」
「私がこんな話をすればおおかたの人は私から離れていくの。」
「何で?」
「分からない。ただ私は人にあまり興味が持てないの。」
「それって君の悩みと関係は...
「それはないわ。」
「早いな。」
「そんな程度で死にたいとは思わないわ。」
そうなのか。
頼られたことと選ばれたことの嬉しさでついつい引き受けてしまったが、
正直この先どうすればいいのかどうやって聞き出すか。
この会話の後、長い沈黙が続いた。
こういう場面を僕は何度も知っている。
相変わらずが嫌になる。
沈黙を作り出してしまう自分が。
しかしある意味、というか、考える隙間が出来たようだ。
僕を自己嫌悪をもたらすこの沈黙とは一体何なんだろう?
おそらくそこには何もない。だけど、全てだ。
だからこそ、悪い妄想で頭を埋めてしまう。
「もうどれくらい経ったのかなぁ。
お腹も減らないし、どれくらい経ったのか予測も出来ない。」
「もういいわ。」
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