第2章「悩み部屋」その8


「...」


「...」


「そういえば家はどこらへんの?」



「近所よ。徒歩で30分くらいかしら。」


「へぇ近いな。僕は20分くらい。じゃあ、中学は一緒だったかもね。」


「それはないわ。私が所属していた中学校は1学年100人程度だったの。


だからもしあなたが同じ中学なら私は確実に覚えているわ。」


この少女から確実になんて言葉を使われるとは思わなかった。


しかしよくよく考えれば、彼女は僕のことを学校にいるその他の男子よりも


少なからず意識しているのではないか、


そんな期待が混じった憶測を立ててしまった。


僕が彼女にとって選ばれた存在であることを僕自身、再確認したようだった。


「そっか。この高校を選んだ理由は?」


「単純に家が近いのと学力的に入れるところを選んだの。」


「それ、僕と一緒だ。」


「羽塚くんと一緒だなんて。私も落ちたものね。」


「お前は僕を見下げすぎだ。」


「そう?」


笑った。


いやニヤついたという方が正しいかもしれない。


初めてみせた彼女の笑顔は僕をくすぐったくさせた。



そのせいか彼女への視線を外し、再び部屋の周りを見渡した。


「それにしてもこの部屋って何か子供向けの部屋っていうか、原色が多いな。」


「引き出しって開けてもいいのか?」


「どうぞ。」


中には何もなかった。


「てか思ったけどさぁ、ここの時間って現実世界と同じなのかなぁ。」


「いえ、ここでは時間は止まっているわ。」


「ならここでいくら過ごしてようが、帰ればさっきの時刻と変わらないってことか。」


「それに体の成長も止まっているから食事も取る必要もないわ。」


そういえばここに来てから1時間くらい経つけど、


一向にお腹は空かないし喉も乾かない。


ってことは尿意も便意もないってことか。


これなら一生ここにいても死ぬことはないな。



「その情報もルールブックから知り得たの?」


「ええ。」


「それは今どこにあるんだ?」


「もうないわ。私が1回目に来た時にその机に置いてあったのが最後。


今回はなし。」


「どんなことが書かれてあったの?」




「よく分からない注意事項やらルールやらが記載されていたわ。


広辞苑並の厚さで字も米粒程度しかなかった。」



「それは大変だったね。」


「えぇ。読むのに5時間くらいかかったと思うわ。」


いやそれでも読めたっていうのが凄いよ。


「この部屋って壊せないのか?」


「無理よ。壁はコンクリート、扉はあなたの後ろにあるけど鍵がかかってる、


天井は肩車しても届かない。道具なし。お手上げだわ。」


「ん?何?」


「なんか教室で見るより、落ち着いた感じがするなぁって。」


「そりぁそうよ。私が初めにここに来た時はちょうど3日前。


教室に初めていった2日前から私はここに連れてくる人を探していたの。」


そりぁそんな時に他人に構っていられる余裕なんてないか。


しかしなぜ親や兄弟、中学の友達でもよかったはずだ。


だけど見ず知らずの僕を選んだ。


そこらへんの事情も聞きたいところだけど、


ここからは彼女の悩みに含まれるかもしれない。


まだ聞くべきではないはずだ。

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