落ち込み少女

淡女

第1章「平木尊」その1



―「ここから、飛び降りて」







その瞬間、風で少女の髪がなびいた。


僕もその言葉に靡くようにただ固唾かたずを飲んで、見守ってほしいほど心が動揺していた。


目の前には、グランドの方を指さす、凛と立つ少女。


初めて訪れた学校の屋上。傾く夕日。


裏声が交った若々しい掛け声―。


僕はたった今、学校の屋上で、一人の少女から命を絶つよう命じられていた。



わけが分からないだろう。それはそうだ。


僕だって、この状況を理解していない。


たぶん今まで学校や家で学んだ知識すべてを惜しみなく


総動員した「常識」とやらでは、とうてい太刀打たちうちできそうにない。




過不足かぶそく



僕のこの焦りに焦った心臓の鼓動こどうの高鳴りとか、


拳を握った時にじわっと感じる汗とか、少しは理解してもらえるかもしれない。



たぶん、いまごろ僕のトロットロの血がいつもの各停から特急にまで変わっているはずだ。


まるで何かにせかされているかのように。



やけに、冷静だって?それは違う、違うんだ。



きっとこの状況を、


僕の緊張と焦りと恐怖をいちはやく誰よりも理解してほしくて、平静をよそおう方がいいような気がしただけなんだ。



とりあえず、僕が体験してきた昨日の一限の授業までさかのぼることにしよう。

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