被害者から犯人への手紙
君がこの手紙を読んでいるということは、ぼくはもうこの世にはいないのでしょう。こんな形になってしまったけど、君にあやまりたいんだ。ぼくは君の妹さんを傷つけてしまった。ごめんなさい。君がぼくをうらむのは理の当然と思う。そう、ぼくは君に殺されることをあらかじめ覚悟していた。
でも欲を言えば氷のナイフで刺すのはやめてほしかったな。あれはずいぶん切れ味が悪いから、氷が溶けて凶器が消失するまで死んだふりを続けるのがとても痛くて苦しかったよ。
しかし、部屋の真ん中に鏡を置いて死体を消すトリックは見事だったね。重い鏡を運ぶ間も君はずっと上等な背広を着ていたね。暑くなかったかい。しかしこの洋館のあちこちに意味もなくずっとおいておいた鏡を毎日ぴかぴかに磨いていた苦労がはじめて報われたよ。
報われたといえば、家内に光熱費がかかるからやめろと言われたたシャンデリアも、君に時限装置で落下させられるときにはじめてその真価を発揮したのかもしれないね。凶器の氷が溶けたころにシャンデリアが落下し、死体を隠していた鏡は粉々に砕け、ぼくがシャンデリアの下敷きになって死んだようにみえるという寸法だ。
そうそう、時限装置も単純だが効果的だったね。ぼくがたまたまアロマキャンドルにはまっていたから、ろうそくの燃えカスくらい、もし見つかったって不自然ではないだろうし、後で捨てるのもかんたんだ。ろうそくの火はゆっくり燃えて、短くなったところでワイヤーを支えていたロープが焼ききれるわけだ。その工夫はまさに芸術といっていいだろう。
君は怒りに震える炎と氷のように冷たい理性で完璧な殺人を成し遂げた。陸の孤島といっていいほどのこの洋館に、万が一名探偵が居合わせて、君のトリックを見抜いたとしても、決して恥じることはない。
いいかい。やけになってはいけないよ。死なばもろともなんて、洋館に火を放つべきではない。実は君の妹はまだ生きているんだ。
君の家系は満月の夜に双子が生まれたら、一人を殺さなければならないという伝承があっただろう。君の妹さんがまさに満月の夜に生まれた双子だったんだよ。君のご両親は妹さんを殺さなかった。一人を地下牢に入れて隠して育てたんだ。
君はぼくが君の妹を陵辱し、妹さんはそのショックで自害したと思っている。それは、半分正しく、半分まちがっている。
ぼくが犯して殺したのは君の地下牢に監禁されていたほうの妹なんだ。君の知っている君の妹はぼくがさらってこの洋館にずっと閉じ込めている。
君のご両親も、我が子を生まれてからずっと地下牢に押し込めていたなんて、知られたくなかったんだろうね。この秘密を口にすることはなかったよ。
君の妹さんが今どのように暮らしているか、詳しく書くのはやめておくよ。ぼくは通常の性交、つまり性器を使った性交にはとっくの昔に飽きてる。だからといって、君の妹がどこを噛み、どこを舐め、何を飲まされ、膣や肛門になにを入れられているかなんて、聞きたくはないだろう。自重するよ。
ぼくはあの世で君を待っているよ。君もはやくきたらと思う。
おや、今度はこの手紙を燃やすのかい。無駄だよ。なぜって、真実の言葉は決して灰になったりしないのだから。
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