16話 笑って暮らせる生活
朝が来て、コナンとバーンがやってきた。
2人ともすげえニヤついてる。
まあ、色々隠す気のないアシュリンが裸のままベタベタくっついてるから仕方ないのだが……。
(うーん、一晩でえらい変わりようだな)
今も俺の腕に鼻柱を擦りつけたり、ガツガツぶつけて遊んでるが楽しいのだろうか。
「じゃあ、ちょっと休んでくる」
「あ、はい。お疲れさんです」
バーンがニヤつきながら見送ってくる。
なんかムカつくぞ。
俺はそのまま自分の小屋に入るが、なぜかアシュリンまでついてきた。
そのまま当たり前のように俺のベッドで転がるが、なんなんだろう。
「なあ、アシュリン――」
「い、痛かったぞ」
わからん。
言葉が通じないらしい。
仕方がないのでそのまま隣で寝ることにした。
その間もやたらベタベタチュッチュッしてくるので、ちょっとめんどくさかったのは内緒だ。
そして……目覚めた時に彼女は正気に戻っていたらしく、頭を抱えて「うごご」と悶絶していた。
「わ、忘れろっ! 忘れるんだっ!」
そのままバーンやコナンに絡んでいたが、どうやらデレデレ状態は色々あってテンションがおかしかったらしい。
しかも記憶があるらしく
コナンが「大丈夫ですよ、おめでとうございます」と冷静にお祝いし、バーンは「えへへ」とニヤニヤ笑いをしていた。
「うむ。皆が実に嬉しそうだ。よかったではないか」
「うーん、まあ、そうかな?」
スケサンは嬉しそうに「そうだとも」と頷いた。
「つがいが生まれるのはな、群れに可能性が生まれるということだ。この群れに未来の筋道が1つできたのだよ」
スケサンがなにやら哲学的なことをいう。
(未来、ねえ)
ぼんやりと眺めているとアシュリンが視線に気づいたようだ。
こちらを振り向いて「勘違いするなっ」とか怒鳴っている。
「わ、私はオマエが寂しいこというからついクラッと来ただけだ! ぜ、全然なんとも思ってないんだぞっ!」
どうしよう。
全力で『私はチョロいです』と宣言されても対処に困る。
「でも、その……嫌な思いをする人がいない里を作りたいって気持ちは、わ、わ、私も同じだから、だから一緒に作ってやる」
そういえば、そんな話をしたような……だけどそんな大げさな話だっただろうか?
俺が困っているとアシュリンは1人で「今のは嘘だ」「やっぱり嘘じゃない」とか「でも調子にのるな」とか騒いでいるが、楽しそうなので触れないようにしよう。
とりあえずアシュリンはそっとしておき、俺は窯の様子を見に向かった。
用意した薪も残りわずかになっているようだ。
「もう少し、薪がなくなるまで焼いたら窯を冷まします。2日くらいでしょうか」
「そんなにかかるのか」
コナンが薪を放り込みながら「火には毒がありますから」と答えた。
なるほど、たしかに煙などが毒になるのは俺でも知っている。
「熱がとれてから十分にあおいで風を送り込まないと危険です。火の毒に当たれば命を落とすこともありますから」
「まあ、当たるとしたら俺っすけどね……はは」
コナンとバーンはそのまま最後まで薪をくべ、休憩に入った。
「このまま燃えつきるまで様子を見てください」
コナンは「よっこらしょ」と立ち上がり、こちらをじっと見つめる。
「よい目標です。私は応援しますよ」
この言葉は唐突で、俺は少し戸惑ってしまう。
「さっきの話ですよ」
「嫌な思いをすることがない家庭を築くんですよね。ひひ」
コナンは真面目に、バーンは少し茶化しながら俺とアシュリンを祝ってくれているようだ。
「か、か、家庭じゃない! 里の話だっ!それに、こ、子作りしただけだしっ!」
アシュリンが真っ赤になって否定するが、子作りしただけってなんだ。
種馬扱いされるのはさすがに傷つくぞ。
「一緒ですよ。アシュリン様が笑って暮らすことでよい家庭になり、よい家庭が増えれば里が栄えます」
コナンの言葉には誠意がある。
アシュリンが唇を尖らせながらも「うん、わかった」と素直に頷いた。
コナンとバーンが去り、俺とアシュリンのみが作業場に残される。
スケサンはどこかに行ってしまったようだ。
(気を使わせたかな?)
俺は隣に座るアシュリンをぼんやり見つめながらスケサンに感謝した。
窯は薪をくべるでなく、火が消えていくのを見守るだけだ。
退屈な時間に、憎からず思う男女が2人……こうなれば他にすることはない。
俺は本職の女性にしてもらって嬉しかったことをアシュリンにお願いし、彼女は不器用ながらも応えてくれる。
なんだかんだで可愛いと思うのは……俺もどうにかしたのかもしれない。
(なんだか、大変なことになったなあ)
行為を終え、俺の胸に鼻柱をガツガツぶつけて遊んでいるアシュリンをなでた。
彼女はそれに応え、嬉しそうに目を細めて鼻を擦りつけているが……これは彼女の求愛行動なのかもしれない。
『誰も嫌な思いをすることのない里を作る』
言うは易し、だと思う。
現実は皆が少しずつ我慢するのが社会というものだろう。
「でも、目標にはいいかもな」
つい、独り言が口からでた。
思い返せば、久しぶりの独り言のような気がする。
アシュリンが「ふあ?」と間の抜けた声をだし、つい笑ってしまった。
鬼人とエルフでは子供は成しがたいかもしれない……でも、彼女となら意外といい家庭も築けるかもしれない。
コナンは『アシュリンが笑って過ごせば、里が栄える』といっていた。
故郷を逃げ出した俺に、新しい目標が生まれたようだ。
☆★☆☆
数日後、窯から器を取り出すと半分くらいは壊れていたようだ。
「これはどう考えたらいいのだろう?」
「上出来ですよ。この
コナンは口が広く、高さのない甕を取り上げた。
全体的に茶色くなった甕には少し模様のようなものがついているようだ。
「これは
よく分からないが、俺とアシュリンで火力を上げまくったのがよかったのかもしれない。
取り出した器は火の加減や、窯の中での位置で一つ一つ微妙に風合いが違う。
「しかし、粘土は黄色に近いのに焼けたら赤みがかるとは不思議なものだな」
「うむ。この甕など、なかなか味があるではないか」
陶器の好きなスケサンはコナンの甕がお気に召した様子で、しきりに「ほうほう」と喜んでいる。
俺たちは使えるものと壊れたものを分け、壊れたものは固めておく。
こんなガラクタでも次の材料になるらしい。
「割れなかったものは川で水にさらします。このままでは土のアクが出てしまいますから」
「ふうん、すぐ使えないとは面倒なんだなあ」
順に川に並べて水に浸ける。
ヒビなどがなくても水を入れたら漏れ出てくるような出来の悪いものもあるようだ。
「はは、大丈夫ですよ。よほど漏れなれば使ってるうちに器の目が詰まり漏れなくなることもありますから」
「……こともある、ね」
コナンの言葉に苦笑し、甕に溜めた水をこぼすと強い濁りが出た。
これが土のアクだろうか。
いくつかチェックすると、中には穴が開いたように水が漏れるやつもある。
これでも使い道はあるだろうが、他の器とは別にしておいた。
「水に沈めてください。半日も浸けておけばキレイになりますよ」
「流されないように少し掘るか」
俺は指示通りに器を川に沈め、様子を見る。
「これでいいかな?」
「ええ、十分です。あとは皮なめしに使うナイフと、新しくできた器で煮炊きする
次はナイフに使う石と、かまどを作る粘土の採取だ。
かまどは今での焚き火をぐるりと煙突で囲んだような簡単なもので、上に器を乗せて煮炊きする形だ。
この手の作業は慣れたもので、わりとすぐに完成したのはよかった。
ちゃんと上辺には五徳のような凸凹もつけたぞ。
この日はアシュリンとバーンがとってきたイモと燻製の肉、それに養っていたカメをつぶして茹でた。
お祝いなので塩を多めに入れ、皆で舌鼓をうつ。
やはり食材は煮ると量も増えるし、なによりうまい。
アシュリンが笑って暮らす生活に、少し近づいただろうか?
■■■■
ちょっとめんどくさかった
いわゆる賢者モード。
射精をすると大脳皮質の動きが鈍り、脳から性欲減退や眠気を誘う分泌物がでてしまう。
男性が事後そっけなくなっても、愛がないとかそういう理由ではなく、脳の働きの問題なので女性は心配しなくてよい。
しばらく放っておいて、ちゃんと回復するなら愛はあるといえよう。
もちろん賢者モードの強弱には個人差がある。
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