悪魔ガエル × いきなり!カポエイラマスター × ねこ勇者  ~ 誕生はデスゲームですか!? ~

@inuinu

第1話




「俺氏、生まれました・・・」



それほど大きくもない声。


ピチャ。


ドロリとした液体が、口の両端からゆっくりと落ちた。それは頭の先から足の先にいたるまで、ぐっしょりと男を濡らしているから。


ピチャ、ピチャ、ピチャ。


指先、顎から次々と垂れ落ちていく。男は自らの体をブルブルと震わせ、周囲に粘液を撒き散らした。自分の体が濡れていることに気づいて、それを良しとは思っていなかったようだった。



「ハッピーバースデー」


嬉しくもなさそうに言い、青すぎるほどに青い空を見上げた。



足元には1mほどの大きさの白い卵。それが真っ二つに割れた状態で地面に転がっている。今さっきこの卵から出てきたのだ。バコッという音と共に、突き破り飛び出してきた。


「今日は俺氏の誕生日・・・」


寂しそうだった。


それは男の周りには誕生を喜んでくれるはずの両親も、兄妹も、取り上げてくれた医者もいない。だれもいない。周囲には人っ子ひとりいなかった。ひとり、たったひとりでこの世界に生まれ落ちたのだ。



「キエーーーーーー!」


奇声。遠くの方から人間とは思えない鳴き声と、微かに人間の悲鳴が聞こえた。


「ぎょえーーーー!」


ザクザクザクザク。


大きく飛び上がり着地するや否や地面を掘り潜っていった。



「ツラ、、ツラすぎです」



ぽこっ。


しばらく経って危険はないと判断したのか顔をだし空を見上げ、2回だけ鼻をスンスンといわせた。



「俺氏、悪魔ですね・・」


呟いた。


「カエルっぽい・・」



地面から這い出して土を払った。


手を広げクルクル回したり、足をひねったりしながら自分の体をじっくりと観察した。体の外側は緑、お腹や腿の内側は白い。カエルに見えた。少なくとも人間ではない、それは確実だった。



「俺氏、めちゃくちゃツラい」



せめて人型の悪魔になりたかった。ヴァンパイアとかが良かった。デカいカエルの悪魔になんか生まれたくなかった。


「めちゃくちゃ文句言いたい・・・けど誰に言ったらいいんでしょうか」



否。



「はぁ、、、これが誕生した日に見る景色ですかねぇ?」



死んでいるものならば沢山いる。



死体。


死体、死体。


死体、死体、死体。


死体、死体、死体、死体、死体、死体。



見渡す限りの死体。


全ての死体が悲痛な表情のままで固まっている。


「こわっ」


地面は荒れ遠くの方には黒い煙が上がっている。


何度か微かに人間の声、叫び声、悲鳴、が聞こえる気がしたがそれが実際の声であるのか、目の前にある死体たちから発せられる無念の叫び声であるのかは分からなかった。


「戦場ですか?」


「異世界じゃないのですか?」


「転生?転移?」


疑問を呟くが誰も答えてはくれない。だから悪魔ガエルは空を見上げる。死体を見ていたくなかった。


「俺氏も殺されるの?」


周囲を見渡すが相も変わらず誰もいない。



「あれ、、名前、、、、、」


思い出せない。


「人間だったはず・・」


わからない。


「人間、だったですよねえ、、、、?」


そうだった気がする。けれど何も思い出せない。人間だった時の記憶が無い。自分がどんな人生を歩んできたのかも、両親の事も、何歳だったのかも、何も思い出すことが出来なかった。


「それにしては・・・なぜでしょう?」


わかることもある。


自分が悪魔であること、ここが異世界ファンタジー世界であること、人間は憎むべき相手であること、などなど・・・。なぜわかるのかはわからないが、なんとなくわかった。記憶がすり替わっているかのようだった。



「どうしましょう?」


剣が光った。死体のそばに落ちている一本の剣。


「死ね・・ですか?」


カエルの悪魔。


最悪な人生、いや、人生ですらない。人間の敵。憎むべき存在、悪魔。鋭い刃が誘っているように感じた。死ねば楽になる、今すぐに命を絶て。誘っている気がした。


「アホですか、、」


即座に否定する。



「誰が死にますか。今日は俺氏の誕生日!誕生したその日に死ぬなんて嫌に決まってるじゃないですか。だから死なない。俺氏、生きる!」


ずさっ。


土を蹴り剣を覆い隠した。


「俺氏はカエル。世にも珍しい悪魔ガエル!サーカスにいけばきっと大スター間違いなしです!はは、はは、、、」


乾いた笑い声をあげた後、ピョンピョンと大きく飛び空を見上げた。


「それじゃあ、、」


溜息をひとつ。


「ゲコッ」



死体を丸ごと飲み込んだ。



大きく開けた口に、収縮した死体が次々と吸い込まれていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る