第245話重要人物
「さて、行くとするか」
帝国の自室で、アルガスは鏡の前に立つと襟元を正した。
「今日は一世一代の大立ち回りをしなければならないからな」
自分の身だしなみに問題がないかチェックする。
今日はアルカナダンジョン財宝盗難事件の期日なのだ。
アルガスはこれから各国の王が揃う会議室で事件の報告をしなければならない。
「期待していなかったとはいえ、何一つ犯人に繋がる痕跡は発見されなかったな……」
この一週間というもの、部下たちを総動員して捜査にあたらせたのだが、犯人の髪の毛一本たりとも見つからなかった。
「皇帝の見張りに人を割かれたのも痛い」
この忙しい中、崩御してしまった皇帝。お蔭で死体を保存するため冷気魔法を使える魔道士と塔の警備をより厳重にするため人員を割り振るしかなかった。
「もっとも、口を開けぬというのは都合が良い」
アルガスはアゴを撫でると笑みを浮かべる。
帝国はなんの手掛かりも得ることができなかったので、各国に対し誠意を見せる必要がある。
アルガスは皇帝の首を差し出すことで責任と賠償の減額を申し出るつもりだったからだ。
アルカナダンジョンを攻略した財宝が盗まれたのだ。各国は当然その責任を追及してくるだろう。
普通に考えるならアルガスの宰相退任にはじまり、国庫を二つ明け渡すほどの賠償額を請求されることになる。
だが、差し出すのが帝国のトップならどうだ?
流石の各国もそこまでの誠意を見せたなら溜飲を下げ、賠償を下げざるを得ない。
「アルガス宰相。各国の代表が続々会議室に入室しております」
「うむ。今行こう」
呼びに来た部下に返事をするとアルガスは会議室へと向かった。
「どうも、お待たせしてしまったようですな」
皆が通ってきた正面の扉ではなく、裏にある小さな扉からアルガスは姿を現した。
この通路は帝国の、重鎮でなければ使うことができない。
帝城は中央にそびえる玉座の間を中心に各種部屋が用意されている。
この造りは皇帝などの権力者が移動する距離を最小限に抑えるとともに、もし外敵が害を成そうと襲い掛かってきた場合、奥へと逃げ込むためだ。
内側はところどころに隠し通路や、侵入者をやり過ごすための隠し部屋があるので利用する人間はその配置を覚えておかなければならない。
現在、このルートを知っているのは皇帝を覗くとアルガスしかいなかった。
どの国の王も眉間にしわを寄せてアルガスが来るのを待っている。
盗難の捜査状況は伝えるまでもなく知っているに違いない。
その険しい目はいかにしてアルガスを罰するかを考えているようだった。
アルガスはほくそ笑む。各国の王は自分を退任に追い込み多額の賠償金を支払わせるつもりだろう。
だが、皇帝の首を捧げることまでは予想できていない。
何故なら、国のトップを差し出すということはそれほどに重い謝罪になるからだ。
自分がその提案をしたら各国の代表はどのような顔をするだろうか?
流石にモカ王国やアナスタシア王国は表情に出さないかもしれないが、それ以外は慌てふためくに違いない。
今からその様を楽しみにしながらアルガスは皆の正面。ホストの席へと腰かけた。
帝国のトップが座る豪華な作り。低反発する硬めの座席に、どっしりと受け止める背もたれ。超一流の職人がこしらえた椅子は実に座り心地が良い。
自身が帝国を牛耳った日には部屋の家具一式を作り直させても良いかもしれない。
そんな思考をおくびにも出さない。
見ればエリクやソフィア。それにアルカナダンジョンを攻略したメンバーも揃っていて会議に参加している。
ミーニャの姿が見えないようだが、皇帝の首を差し出す決定をした場合、襲い掛かってくるかもしれないので丁度良かった。
「それでは、定刻になりましたのでこれより国際会議を始めさせていただいたいと思います」
司会がコホンと咳ばらいをする。
「それではまず、先日のアルカナ財宝盗難事件についてですが――」
「ちょっと待ってもらえないでしょうか?」
「エリク殿。何か?」
皆がエリクへと注目する。アルガスは何か嫌な予感がしてエリクを睨みつけた。
「そのことを話すには肝心の人物がいません」
「肝心の人物だと?」
真顔で自分を見つめるエリクにアルガスは聞き返した。
「ええ、今回の事件における最重要人物と言い換えても構わないかもしれませんね」
周囲の人間たちも動揺しているのか騒めきだした。アルガスはその様子をみてこれが各国の仕掛けた罠ではなくエリクの独断専行だと辺りをつけた。
「なるほど、今回の事件の重要人物。それはもしかすると犯人に繋がる人物ということですかな?」
「そうですね。そのような人物です」
アルガスは内心で笑みを浮かべる。
エリクにどのような意図があるのかはわからない。だが、今のような受け答えをしてしまえば事件の責任はエリクへと移動する。
もしかすると買収の減額どころではなく逆転の芽も出てきたかもしれない。
「それは是非お目にかかりたいものです。扉の外に待機されているのですかな?」
椅子に背を預け、これまで以上の余裕を得たアルガス。にやけた顔でエリクを見ていた。
「ええ、実はもうそこまで来てもらっています。この会議室に入ってもらってもいいですかね?」
各国の代表に許可をとる。皆、エリクの言う人物に興味があるのか頷いた。
「それでは皆さんの許可もありますので入ってきてください」
皆の視線が扉へと集中する。どのような人物なのか、どのような証拠を持っているのか。
アルガスが意識を極限まで集中して扉を見ていると――
――ガタンッ――
背中の扉が開く音がした。
※
お久しぶりです。まるせいです。
現在、原稿を必死にやっています。更新しなければと思っていたのですが、
大魔王バーンのカイザーフェニックス連発ばりに次から次に原稿作業がはいるので一切余裕がありませんでした。
きちんと話を進めるつもりはあります!もうじき色々告知できることがあるので、もうしばらくお待ちください。
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