第222話アルカナダンジョン【悪魔】①

「さて。それじゃあアルカナダンジョン【ⅩⅤ】の攻略を開始しようか」


 目の前にはイブとタックとルナにマリナ。そしてミーニャさんが立っている。

 僕らは帝国を出発して1週間。クレーターの真ん中にある建物の前にきていた。


「いよいよね。流石に緊張するわ」


 鎧に身を包んだマリナが険しい顔をすると……。


「緊張だぁ? 俺はむしろワクワクしてるぜ」


 タックが子供が泣き出しそうな怖い笑顔を浮かべている。


「皆さん成長しているから大丈夫だと思いますよ」


 そんなマリナの緊張をほぐすつもりでイブがそう言った。


「うん、あの時に比べて私たちは随分と強くなった。今度は負けない」


 負けず嫌いなのかルナは杖を握り締めると闘志を燃やした。


「それじゃあ、ミーニャさん。お願いできるかな?」


「……わかりました」


 相変わらずのメイド服に不釣り合いな長剣を携えたミーニャさんは前にでると……。


「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」


 何やら唱え始めた。すると目の前の扉が音を立てて開く。帝国が調べた開錠の合言葉が効果を発揮したらしい。


「ここから先はどんな敵や罠があるかわからない。皆油断しないように進もう」


 僕は気を引き締めると皆に向けて警戒を促すのだった。





「ここがアルカナダンジョン。今のところ普通のダンジョンとかわりませんね」


 後ろからマリナの声が聞こえる。彼女は周囲を警戒するように見渡すと、そんな感想を述べた。


「入るなりデーモンが総出で押し寄せるのかと思ってましたけど、今のところ気配がありませんねぇ」


 イブは以前にアークデーモンから一撃もらっていらいデーモンを目の敵にしている。

 今も率先して前を歩いていて、デーモンが現れたら真っ先に戦うつもりのようだ。


「ただ歩いてるだけじゃ退屈だからな。もっとも、このダンジョンがそんなに優しいわけねえけど」


 前衛にはタックとイブが立ち前を警戒しており、後衛はマリナとルナが務めている。


 そして中衛には僕とミーニャさんが待機していて、敵が出たら即座に駆け付けられる体制をとっていた。


「このメンバーならアークデーモンが出てきても負ける要素はない」


 ルナがぽつりと口にする。確かにこの場にこれだけの戦力が揃っているのなら生半可なモンスターでは相手にならない。


 何せ、ひとりひとりが一騎当千の強さを持っており、Sランクモンスターを相手にしても引けをとらないのだ。


 しばらく無言で進み続けるが、モンスターの気配が一向に漂ってこない。


 以前仕掛けてきた際に僕はメテオの魔法でこのダンジョン周辺を押しつぶした。

 もしかするとその時に戦力の大半を失ったからモンスターが出てこないのではなかろうか?


 そんなことを考えていると、まるで僕の思考を読んだかのように……。


「敵が前と後ろから来ますっ!」


 イブの索敵能力が発動した。それと同時に……。


「えっ?」


 前から現れたデーモンを迎え撃つタックとイブ。

 後ろから現れたデーモンを迎え撃つルナとマリナ。


 それぞれが僕たちから離れると、前後の地面からデーモンが湧き出してきた。


「ミーニャさん。背中を任せていいかな?」


「……わかりました」


 これまで襲撃が無かったのはどうやら分断を狙っていたからのようだ。

 僕とミーニャさんは背中合わせにして剣を抜くと、目の前のデーモンと戦い始めた。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』


 巨体を持つデーモンは腕を振るうと僕へと攻撃を仕掛けてくる。

 そこまで広くない通路なので、無造作に立ち回るとミーニャさんとぶつかってしまう。

 僕はデーモンの攻撃を2本の魔法剣で受け止める。するとそれなりに強い衝撃が腕に伝わってくるのだが、そもそも普通のデーモン程度では話にならない。


 僕は余裕をもって相手の攻撃を跳ね返すと、


「この程度じゃ僕らを足止めするには足りないかな」


 バランスを崩しているデーモンを斬り裂いた。


「GAAA?」


 一瞬の攻撃で何をされたのかわからない様子のデーモン。次の瞬間身体に線が走ると……。


「……A?」


 それが最後の言葉になりその場に崩れ落ちた。


「さて、他の皆はどうかな?」


 前衛ではイブが奮い立ってデーモンを倒しまくっているのが見える。

 後衛でもマリナとルナが連携してデーモンと戦っているのだが、元々あの二人はペアで行動していたのでコンビネーションが完璧で問題ないようだ。


「GA……GAAA……GAGAGA!」


 僕は気になってミーニャさんの様子を見る。剣を振るたびにメイド服から強調されている豊かな胸が揺れる。彼女の振るう剣は鋭く、そして美しい。


 デーモンを翻弄するためにステップを踏むのだが、そのたびにスカートがはだけてガーターベルトと艶やかな生足が見える。


 ひたすら無言で攻撃を行う彼女をみた僕は、特に援護が必要がないことをさとると他に敵がいないか気配を探る。


 だが、どうやら仕掛けてきたのはこれで全部らしく、まもなくその場に現れたデーモンは僕らの手によって全て倒された。



「ふぅ。突然の奇襲の割には案外たいしたことなかったな」


 タックが剣を鞘に納める。


「そうですね。でも、エリクの特訓が無かったらもう少し苦戦して時間がかかりました。試験に不合格だった探索者たちでは超えられなかったと思います」


 マリナの感想が聞こえる。


「何はともあれ問題ないようですね。このメンバーなら問題なくアルカナダンジョンを攻略できると思いますよ」


 その場の全員の気が緩む。その次の瞬間……。


「「「「「えっ?」」」」」


 足元で魔法陣の光が浮かび上がった。


「何これっ!」


 ルナの言葉を聞きながら僕はその魔法陣を観察する。この模様は…………。


「転移の魔法陣! 皆気をつけろよっ!」


 敵の狙いは最初から僕らの分断にあったようだ。

 次の瞬間輝きが増し、僕らは…………。


 視界が反転すると――


 ——僕らはそれぞれが散り散りに転移させられるのだった。

 


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