第98話魔石

「それで……これが使用済みのコアからできたコアですか?」


「ああ、とはいっても作り方を見つけたのは俺じゃない。カイザーとキャロルなんだ」


 あれから、王都に戻った僕はイブに新しいコアについて相談をしていた。

 疲労しているようなので、一応休まないか確認したのだが、本人が「このぐらいは平気です」というので信じることにしたのだ。


「動物は本能が強いですからね、下手に凝り固まった考えよりも真実に近いのでしょう」


 目の前にある青く光るコアを眺めるとイブはそう結論付けた。


「それでだな、キャロルのコアは【温泉】に浸けておけば出来ると突き止めたんだが、カイザーの方のコアの条件が解らないんだ。いくら聞いても要領を得なくてさ……」


 カイザーは必死に両方の説明しようとしてくれているのだが、言語の壁にぶち当たったせいで一向に伝わってこない。


「なるほど……それじゃあイブが聞きますね」


 イブはそう言うとカイザーに向き直り、話しはじめる。

 カイザーは身振りで説明をし、その度にイブは「うんうん」と頷いてみせる。


 5分程のやり取りを終えるとイブが顔を上げた。


「そういうことでしたか、青のコアの作り方がわかりました」


「どうやって作ったんだ?」


 温泉のようなわかりやすい条件では無いのだろう。僕は答えを知りたくて丸1日試行錯誤したのだが……。


「答えは卵の殻でした」


「卵の殻ぁ?」


「マスターの食事にはカイザーが産んだクリスタルバードの卵が時々でてくるじゃないですか」


「ああ、昨日も産んでたみたいだな」


 もっとも、イブが解析に掛かりきりだったので外食をしたので昨日はゆで卵を食べていない。


「カイザーはどうやらイブが保存している卵の殻の粉末に使用済みのコアを落としたそうですよ」


 最初は【畑】の拡張栄養源として使っていた卵の殻だが、途中から成長がカンストしたのか止まってしまったのだ。

 それでも何かに使えるんじゃないかと思って保管していたのだが…………。


「そんなのわかるわけないし……」


 確かにカイザーは関係してるけど、関連を見つけ出せというほうが無理だ。


「動物に論理だてした行動をとれと言う方が無駄ですからね。先日のダンジョンだって色々チグハグな点が多かったですし」


 確かに。クリアさせる気が無いのかと思わせておいて最奥部ではボスすら置いておらずコアや財宝も取り放題。

 そして絶対に見つけられないような場所に隠し報酬として壊れている杖があったのだ。


「完全に1日無駄にしたってことか……」


 イブが5分で解決することを1日かけて成果が無かったのだ。僕が落ち込んで溜息を吐くと……。


「そうでもないですよ」


 イブの言葉に顔を上げると。


「解析に専念できるように頑張ってくださったマスターの気持ち、イブは嬉しかったですから」


 そういって微笑んで見せる。僕はその笑顔を見ると気が楽になり落ち込むのをやめると「なんだよそれ」とおどけてみせるのだった。



「それでですねマスター。この2種類の復活コアの効果についてですが……」


 あれから、イブに更なる解析を求めるとイブは少し悩んだ末に結論をだした。


「まず【温泉】のコアですが、こちらは単純に魔力を蓄えているようです。一番小さなコアでも並みの魔道士100人分程度はありますね。魔力の操作に長けている者が使えば自由に魔力を引き出して補充することができそうです」


「つまり、電池みたいなものか?」

 

 前世で充電用の電池が存在した。この場合【温泉】が充電器でコアが電池のようなものだろう。


「そうですね。使って魔力が無くなってきたら【温泉】で補充もできますし、これがあればマスターの魔力は永遠に尽きることはなさそうですね」


 一応、この世界で一般的な魔力補給の仕方はマナポーションだ。飲むことで魔力を回復させることができる。

 僕も今回のダンジョントライで魔力欠乏に陥ることがあったので、今後を考えて作ろうと思っていたアイテム。


「そうすると……仕入れた錬金道具の意味も少し失われたな」


 銀行にオリハルコンインゴットを売った金で鍛冶やら錬金の為の道具を揃えたのだが、マナポーションを作る必要はなさそうだ。


「それにしても、これも結構高額でうれそうだよな」


 ポーションと違って飲む必要が無く手軽だ。

 戦闘時の補給は味方が前線を支えてくれなければすることができない。

 よって、補給をしている間は魔法が飛ばず大きな隙となり戦況が瓦解することもありえる。

 だが、これならば戦況を変えることなく常時補給が可能なのだ。


 間違いなく国家魔道士や高ランクダンジョン探索者にとってかなり重宝されること間違いないだろう。


「そうですね、売るにしてもマスターにしか作れませんから相当吹っ掛けた方がよいですね。この回復済みのダンジョンコア」


 売るにしても名前がそのままだとダンジョンコアを使っているのがバレるかもしれない。何か良い名前は無いかと考えると…………。


「では【魔石】にしましょう。マスターが前世でやっていたあーるぴーじーでも魔石で回復とかありましたし」


 確かにぴったりくる名前だ。僕はこの魔力を回復させるコアを【魔石】と呼び、試しに高ランク探索者や国家魔道士に超高額で吹っ掛ける算段を考えるのだった。




「それで、カイザーの卵の殻コアなんだけどさ」


 こちらは名前が決まっていないのでそのままの名称でよんでみる。

 このコアは恩恵を成長させる卵の殻を材料にしているのだ。そうとう凄い能力が秘められていてもおかしくはない。


 僕は期待を胸にイブに熱い眼差しを送る。


「マスターも気にしているようなのではっきりと言っておきますね」


 そんな僕の視線を受け、イブが答えた。


「確かに物凄い力が宿ってます。コアにするとランクⅤはありますね」


「じゃ、じゃあ……」


「だけど現時点で使い道がありません」


「な、なんでだ?」


「この【カイザーのコア】ですが卵の殻を吸収しただけあって力はあります、ですがコアをどう動かすかという……人間で言う脳のような部分が空っぽです。なので属性がクリスタルバードの魔石ということになります。それ以上はありません」


「すると【温泉の魔石】と違って魔力を吸い出すのも出来ない?」


 イブのその説明に僕はしばらく考え込むと…………。


「まあ、そのうち何か閃くだろうよ」


 それだけの力を備えているのなら何かの拍子に役立てて見せる。僕はそう考えるとその日は身体を休めることにした。



 

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