第91話ダンジョンランクⅦ③
★
しっかりとした造りの椅子に1人の男が腰掛ていた。
「た、大変です」
そんな中、離れた場所にあるドアが乱暴に開けられると1人の人間が入ってきた。
「何事だ?」
飛び込んできたのは男の部下。そいつは慌てた様子で男に申告する。
「そ、それが。れいのダンジョンが探索されている模様です!」
その報告に男は大きく目を見開く。
「人間程度ではあの隠蔽は見破れぬはず。何らかの不測の事態でも発生したのか?」
ダンジョンには認識阻害のスキルを使っているので、同系統で余程の使い手でなければ見破れないはずだ。
何らかのイレギュラーが発生したのだろ。男は瞬時に冷静さを取り戻す。
何故なら、自分達が仕掛けた状況を思い出したからだ。
「だが、人間どもではあのダンジョンは攻略できぬだろう。なにせ……」
薄らかな笑みが浮かぶ。男は自信満々に続きを言おうとするが、その言葉は部下によって遮られる。
「その探索者は現在、デュアルダンジョンのランクⅦへと進出しておりますっ!」
「ば、馬鹿なっ! 一体どうやって!!」
あのダンジョンは膨大な罠で相手の戦力を削り、1点集中によるモンスターの防衛で敵を全滅させる。生半可な実力では突破できない布陣を敷いているのだ。
ましてやあの大量のモンスターを倒せたとしても、最後の仕掛けで不意をうつようにボスがポップアップする。
生半可な連中では突破できるわけがないのだ。
「お、恐らくはSランクパーティーもしくはクランが発見してしまったのかと……」
男の形相に部下は己の予想を述べた。
「むぅ……たしかにあれを突破したというのならそのぐらいの戦力であろう」
山脈の中腹という人が寄り付かぬ場所に存在しているダンジョンだったので油断したが、実力者ぞろいの大規模クランならこちらの隠蔽を見破れる可能性はある。
「まあいい、いずれにせよランクⅦのダンジョンはやすやすと攻略できぬ。なにせ地面にはこれでもかというほどの罠を巡らせ、構造が複雑すぎてまともに攻略しようとすれば遭難して餓死するのがおちだからな」
どれだけ実力があろうとも生きているからには補給が必要になる。
そしてあのダンジョンはそういった戦力をそぐ為に特化した罠が仕掛けられているのだ。
男は余裕を見せつけるように笑って見せると……。
「その連中が全滅したら念のためにれいの物を回収してくるのだ」
「そ、そこまでせずとも良いのではないですか?」
男の言葉に部下は疑問を浮かべる。探索者共は近い内に全滅するだろう。そうなれば再び入り口を閉じてしまえば良いだけではないかと。
「ふふふ。アレは俺があらゆる事態を想定してあそこに置いたのだからな。もし万が一ダンジョンが攻略されたとしても発見はされまい」
「で、では……?」
「それでも万全を期すのが俺だからな。仲間がいて再びダンジョンに挑んでくる可能性がある以上は捨て置けぬ」
そこで部下は自分が慢心していたことに気付く。
「かしこまりました。敵の気配が消えたところで回収に向かいます」
そう言って敬礼をすると走って出て行くのだった。
★
「こっちでいいのか?」
「キュルルンキュル」
『大丈夫だそうですよ』
現在、僕はダンジョン内を飛んでいる。これは【飛行】魔法によるものだ。
何故飛んでいるかというとイブ曰く『地上は駄目ですね。罠が多すぎて解除しようにも時間がかかります』と言い出したからだ。
「クエェーーー」
飛んでいる僕の周囲をカイザーが優雅に周遊している。
【増幅】未使用の僕よりもスピードを出せるカイザーに周囲の警戒を頼んでいるからだ。
「それにしても、キャロルのおかげでこうも楽になるとはな」
あれから、オリハルコンを使うには設備不足ということもあってか僕はダンジョンの探索を再開した。
出掛けようと準備をしていたところでキャロルがまとわりついてきたのだ。
何かを訴えようとしているキャロルの姿を不思議に思っていると。
「『道案内なら任せて』って言ってますよ」
イブがキャロルの言葉を伝えてきた。そんな訳でキャロルの指示に従って迷路みたいなこのダンジョンフロアを飛び回っている。
そういえばついでに聞いてみたのだが、イブの翻訳機能は相手の言葉を受け取っているわけではないらしい。
何となくの意志を読み取っているらしく、今も進行方向を「右」や「左」とざっくり指示をされている程度だ。
それでも十分な情報ということで、僕は大量の罠を飛び越え、さらには難解な迷路を迷うことなく進んでいた。
「おっ! ようやく抜け出せたかな?」
しばらく飛行していると、迷路の出口のようなものが見えてきて外から明かりが見える。
「ふぅ……やっと抜けた」
側面を壁に阻まれていた圧迫感が無くなり僕は安堵の息を漏らした。
『キャロル偉いですね』
「キュルン」
イブがキャロルを褒めるとキャロルは誇らしげに鳴いた。
「どうやらここが最終フロアで間違いないみたいだな」
普通にやっていたらどれだけ時間が掛ったことかわからない。
僕は飛行をきると地面に降り立ちゆっくりと進んでいく。
すると、巨大な湖に橋が架かっていて、その中央には見たことも無いような財宝が積み上げられている。
そしてその奥では既にテレポーターが起動してあり「どうぞお帰りください」とばかりに歓迎をしているのだ。
『ラッキーですね。ボスがいるかもしれませんけど、あの距離ならコアを抜き取ってテレポーターに入れます。敵はマスターの速度を見誤ったようですね』
確かにその通り。あの距離ならばまず攻撃を受ける事は無い。僕ならば無傷で切り抜けられることが決まっているだろう。
『ダンジョンランクⅦだし、主の性格が悪そうだから苦戦するかと思ったけど、アスタナ島出発まで3日も時間が残ってますね。拍子抜けです』
確かにその通り。実際、間に合わない可能性を考えていただけに肩透かしも良い所だ。
「これもキャロルやカイザーのおかげだな」
空中を飛ぶモンスターが現れたらいち早く知らせてくれたカイザー。完全な道案内をしてくれたキャロル。おかげでモンスターとの交戦を最低限に済ませられた。
『…………』
「もちろんイブにも感謝してるからな」
「えへへへ。そんなの当然ですよ。イブはマスターの安穏を守るのが仕事ですから』
機嫌の良さそうな声がする。
『それじゃあ、早速お宝を回収して帰りましょう』
「ちょっと待ってくれ」
促すイブに僕は1つ付け加える。
『なんでしょうか?』
「ランクⅦダンジョンの水がこうしてあるんだ。ここまで来られる機会はそうそうない。汲んでおこう」
僕はそう提案するのだった。
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