第3話訓練ダンジョン


「おい。エリクぼさっとするなよ」


 目の前では幼馴染の親友。レックスが剣を担ぎながら薄暗いダンジョンを進んでいく。

 剣に鎧といっぱしの戦士のような恰好だ。


「仕方ないわよ。まさか与えられた恩恵があれだったんだもん」


 杖に光を灯したのは同じく幼馴染のミランダ。

 いっちょ前にマントと杖を身につけては明かりの魔法を操ってはそれを楽しそうに動かしている。


「それにしてもあの派手な光はなんだったんでしょうね?」


 最後に一人、神官衣に身を包んだ彼女はこの村の住人では無い。

 教会から今回の儀式に派遣されてきた人物でセレーヌさんという。

 幼き頃から教会で専門的な魔法を教えられた治癒士である。


「ちょっと出してみてくれよ」


「べ、別にいいけどさ……」


 レックスの要望に僕は応える。手をかざすと……。

 目の前の空間が裂けてそこにぽっかりとスペースができていた。


「こんなの聞いた事無いんだけどな……」


 レックスは「よっ」というと恐れる事無くその中へと入ってしまう。

 成人前の少年が一人入った事でそのスペースの余裕は完全に消えた。


「ちょっと閉じてみて」


 僕が言われるままに入り口を閉じると。


「レックス消失マジック!?」


 ミランダが愉快にからかう。僕はさして面白くも無いので直ぐに入り口をだす。


「ねねっ! どうだった?」


 空間に入ってたレックスに質問をする。


「うーん。なんていうか狭くて落ち着く感じか?」


「なにそれ」


 その会話が楽しかったのかミランダはますます笑顔になる。


「あと、ミランダが笑ってるの見えたぞ」


「嘘だよっ!」


「あっ。バレた?」


 などと軽口をたたきあっている。


 そんな会話を聞きながらため息をついていると、セレーヌが隣に立ち「アイテムボックス」と唱えた。

 そうすると僕の恩恵の横にぽっかりと空間が出来上がる。そこには僕の恩恵よりもやや広いスペースがあり、中には雑多に物資が積み上げられている。


「おいおい。こっちの方がでかいぞ」


 レックスのからかいの声が混じる。


「セレーヌさんってアイテムボックス持ってるんですね」


 年上なので流石のミランダも敬語で質問をすると。


「ええ……。スキルの派生として珍しくありませんので」


 そう、最初に貰った恩恵からスキルは派生していく。そしてこの程度のアイテムボックス持ちは珍しくなく。それよりも小さな収納スペースしか持たない僕の恩恵はゴミ恩恵扱い認定を受けた。


 そのせいで恩恵を発動した瞬間、その場にいるほとんどの人間が笑い僕を馬鹿にした。その時に笑わなかったのが目の前のこの二人の幼馴染だ。


「私も早くスキルを得たいです」


 ミランダがうきうきとした様子で自分が成長した未来を想像していた。


「そのためにこうしてダンジョンで訓練をしているのですからね」


 恩恵の儀式を受けた子供達はこれからそれぞれの適正に沿った学校に入学、3年間の教育を受ける事になる。そうして使える人材になったのち、各々が活躍する部門へと進むのだ。


 そして、その事前訓練ということで慣らしの意味もありダンジョンにパーティーで潜るのだ。

 もちろん、駆け出しの僕らが潜るのは既に攻略されているダンジョンなのでさほど危険は無い。

 出てくるモンスターも雑魚しかいないし、地図も用意されている。


 だが、外れ恩恵の僕とパーティーを組んでくれる人間がいなかった。

 今回のパーティー登録はそれぞれの学校を卒業後に組ませる参考にもさせられる。


 なので外れ恩恵の僕と組むという事は将来厄介な荷物を抱えると同義なのだ。

 そんな僕を見かねてか目の前の幼馴染はパーティーを組もうと言ってくれた。

 そしてその指導員としてセレーヌさんが同行したわけだ。


「そうだエリク。折角だから討伐証拠の魔核をその恩恵に入れておいてくれよ」


 今回の訓練では魔核というモンスターを倒した後にドロップする紫色の石を集めてこなければならない。

 魔核は特に役に立つアイテムでも無いのだが、ダンジョンでモンスターを倒した後しばらくするとダンジョンに吸収されてしまう。


 なのでこれまで拾って袋につめていたのだが……。


「そうだよね。折角使える恩恵を持ってるエリクが一緒なんだから活用しなきゃ勿体ないし」


 ミランダが笑顔で追従する。


 そんな二人の気遣いが嬉しく、僕の心はじわりと暖かくなるのだった。

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