パンまく人も好きずき

 ハトに会えた俺はスーパーハッピッピーな気持ちだった。

 ハトさえいれば何もいらない。


 ……


 しかし……いつもより数が少なくないか?


 そう思いつつ俺は、はやる気持ちを抑えて食パンをちぎる。そうしている間にもハトたちは別の場所に目をやり、何かに気を取られているようだ。


 おい、どこを見ているんだ、こっちを見てくれよ。


 俺の思いも空しく……

 一羽、二羽とハトが俺の元から飛び立っていった。


 ああっ、なぜだ! どうしてだ!?

 俺は辺りを見渡した。


 そのとき初めて、今日は公園に人が多いことに気づいた。しかも視界に入るだけでも3~4組の、子連れの家族がいる。

 その子どもたちの何人かが、ハトに大量のエサを与えていたのだ。


 なにぃ!?

 まずいぞ、このままでは俺のハトがいなくなってしまう……。

 しかもあのまき方は……。


 おいおいおい、待てよ子どもたち。

 なぜそんなに遠くにエサを放るんだ。なぜそんなに大量にまくんだ。ハトに近づいてもらいたくないのか? ハトとの見つめ合いを長く楽しみたくないのか? そんなに遠くに放ったらハトが近づいてこないだろう。そんなに大量にまいたら、人の顔を見ず地面ばかりをつつくだろう。そんなに一気にまいたら、すぐエサがなくなってしまうだろう。一体君たちは何がしたいんだい?


 エサの量に惹かれて、次から次へと家族の元にハトが舞い降りる。辺りはハトでごった返し、エサの争奪戦が始まった。大きなハトが小さなハトを追いかけ回し、他のハトも我先にとエサを奪い合う。そして騒ぎを聞きつけ、別のハトが次から次へと飛んでくる。


 その様子を見て子どもたちはキャッキャとはしゃぎ、大量のエサをまき続けた。そしてハトの群れを目にした別の家族のちびっ子がやってきて、足を踏み鳴らしながらハトを追いかけ始める。


 ああ……もうダメだ。

 ……俺の時間は終わった。


 俺は失意のどん底にいた。

 なすすべもなく、その場で謎の狂宴を見守る。


 が、しばらくしてヨロヨロと立ち上がった。

 仕方がない、日を改めてまた訪れるとしよう。


 俺は開封した食パンを持ち帰って、一人空しくそれを食った。

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