第194話 大切な思い出の数々

 アイテムボックスの整理は、ほぼ終わった。だが、ちょっと気になることがある。昨日確認しきれなかったので追加で、もう少し詳しく内容をチェックしていく。


「やっぱり、ものすごい数の日記だ。これからもっと数が増えるだろうし。どこかで一度、内容をまとめ直したほうがいいよなぁ」


 昨日は膨大すぎてチェックしきれなかった、日記の中身について改めて確認する。ページを開くと書き込まれている出来事の数々に、その時に感じた想いなど。色々と忘れてしまっていることも多かった。


 日記を読むことで、思い出すような記憶もあった。これを日記に書き残しておいて良かった。じゃないと、この記憶は思い出せずに、消え去ってしまっていたかも。


 何度も転生を繰り返してきた。累計だと数百年ぐらい。もしかしたら1000年を超える月日を過ごしている可能性がある。少なくとも、俺は普通の人間が経験しないような長い時間を、連続した意識の上で生き続けてきた。だから、忘れたくなくてもうっかり忘れてしまうこともあった。全てを覚えておくことは、出来ないみたい。


 日記のような文章ではなくて年表のような、ひと目見て分かるような形式で情報を整理しておいたほうが良さそうな気もするな。


 これはまた、後の課題として忘れないようにしないと。だが積み上がったノートの数を見てみると、時間が掛かりそうな作業なのは明白。編集作業を行うのであれば、かなりの時間を確保してから気合を入れて、取り掛かる必要がありそうだ。


 開いていたノートを大事に閉じて、積み上がったノートの上に乗せてからアイテムボックスに収納しておく。これで、中に入れたノートや紙は劣化しないから大丈夫。まだまだ時間はたっぷりあるのだから、急ぐ必要もない。


「で、こっちは妻や息子、娘たちからプレゼントしてもらった大切な思い出だ。俺は別の世界で妻や子供が居たんだよ、リヴ」

「ワウワウッ!」


 アイテムボックスに保管しておいた、妻や子供たちの写真の数々をリヴに見せる。今までプレゼントされてきたお祝いの品々、記念日のメッセージカード、子供たちに描いてもらった似顔絵などを額縁に入れて大切に保管している。


 昨日も感じたけれど、繰り返す人生で持ち越せるモノの中では、妻や子供たちとの思い出が一番嬉しい。時々、アイテムボックスの中から取り出しては過去の思い出に浸ることもある。それを眺めているだけで、幸せな気持ちになれるから。


「ネコから貰った万年筆も、ちゃんと使えるな」


 俺が還暦を迎えた時にプレゼントで貰った、世界を代表するような高級ブランドの万年筆。中には特殊なインクが入っている特別製で、紙以外にも色々なモノに書けるようになっていた。前の世界にしか存在していない、特別な一品物。


 どの世界に転生しても、いろいろな素材のモノに文字を書き残せるようにと考えてプレゼントしてもらった。今のところ、普通の紙製のノートに日記を書くときなどに時々活躍している。大事なモノで壊したくないから、流石に普段使いは出来ない。


「もしかしたら、彼女もこの世界に居るのかもしれないよなぁ」

「ワウ?」


 前回、彼女は転生して俺と同じ世界に存在していた。もしかすると、また俺と同じ世界に転生している可能性もあるかもしれない。


 世界中を巡って彼女を探してみようと考えたこともある。だが、闇雲に探し出そうとするには世界が広すぎた。何か、手がかりが有ったのなら探してみるのもアリかもしれない。だが、今のところ手がかりは無し。この世界に居る、という保証もない。


 だから再会するためには、前回のように偶然を頼るしかないような気がしていた。迷宮探索士の学校に入学したら出会えた時のような、偶然に巡り合うことを祈って。今を好きなように生きていれば、いつか出会えるはずだと信じて。


 なので俺は今回、転生している可能性のあるネコを探しに行くことを諦めていた。偶然に任せて、再び出会えることを神に祈るだけ。祈ってみれば、あの時に出会った女神にも伝わるかもしれない。まぁ、おそらく伝わっていないとは思うけど。


 しまったな。あの時、聞いておけばよかったかな。後悔しても、もう遅いか。


 ネコといえば、前世で俺が書いたダンジョン攻略の教本もアイテムボックスの中に数冊保管しているのを思い出した。昨日も、ちらっと見たな。もう一度、取り出して教本を開いてみる。これも、中身の確認。


「ふむふむ」


 前の人生でベストセラーとなった、俺の書いた本。本当は、迷宮探索士の教え子や自分の子供たちのためにダンジョン攻略の技術を分かりやすく伝えるために書いた、俺の持つ知識をまとめた本だった。身内に向けて書いた本が全世界に広まっていき、世界中で教育に利用されることになるなんて、想定外だった。


「うん。こうして見てみると確かに、わかりやすくまとめられているよな。ほら」

「ワウッ!」


 編集者やイラストレーターというスタッフにも協力してもらって、文字だけでなく挿絵などの説明で、見るだけで分かりやすいように内容が細かく考えられているな。改めて読んでみると、ダンジョン攻略の教本としては納得の出来栄えだった。


「あの頃は、ダンジョン攻略は楽しかったなぁ」


 ダンジョン攻略に使った道具も沢山保管している。主に俺が、パーティーメンバーが攻略に使っていた道具の管理をしていた。アイテムボックスという、ダンジョンの攻略に便利な特殊技能があったので任されていた。


 仲間だった者たちが年老いて、使っていた武器や防具などは全て俺が引き継いだ。言うなれば、彼らの形見を受け取っていた。


 思い出の品だから誰かに譲ることも出来ない。実戦で使うのにも気が引けるから、他の使い道が無いんだよなぁ。今のところ彼らから譲り受けた武器防具は、観賞用と化している。まぁ仕方がないか。そんなに場所を取るようなモノでもないから、引き続き大事に持っておこう。大切な思い出として。


「うん。これで、アイテムボックスの中身の最終確認は完了かな」

「ワウ」


 リヴが、お疲れさまと言うような感じで吠えて労ってくれた。アイテムボックスは今後も便利に使っていく特殊技能だから、定期的に整理しておいたほうが良さそう。見えない空間に保管しているとはいえ、中身をちゃんと片付けたら気分が良いから。量も膨大で、整理するだけで何日も必要になってくる。こまめにやっておかないと。


「よっし。じゃあ次の作業をしようかな。……って思ったけど、今日はもう遅いから休もうかリヴ」

「ワウッ!」


 アイテムボックスの中身の最終確認は、思った以上に時間を取られた。もう、日が落ちそうになっている時刻だ。このままだと辺りは真っ暗になってしまうだろうから、本日の仕事は終了しておく。生きることを急がずに、また明日やろう。


 さて。明日からは、生活するための家を作っていく。建築作業に入ろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る