7周目★(SF:パイロット)

第100話 金属の部屋

「ガハッ!? ケホッ、ケホッ」


 意識が覚醒した瞬間、俺は口から大量の水を吐き出していた。溺れていたようだ。しかし、ここはどこだ。


 俺は森の中の小屋でひっそりと目を閉じて、息を引き取ったはずだ。新たな人生に転生を果たしたはずだったが。また、いきなり死にかけている。


 いや、前のような危機的状況じゃないな。死に至るような苦しみじゃない。


 口から吐き出した液体が、床の上に広がっていた。普通の水じゃないようだ。何か変だ。手をついて上体を起こす。その地面はツルツルしていて、ひんやりと冷たい。それに、周りが妙に明るかった。天井を見上げた。光を放つ物体があって眩しいな。火を使った明かりではない。


 あれは、電灯?


「ゴホッ、ゴホッ!?」


 苦しくなって咳をする。俺の体は、いつもの転生と違って、赤ん坊の体に変わっていなかった。どういうことだろう。老衰を迎えたはずの体から若返っている。いや、別人の体なのか。転生ではなく、憑依したとか。


「ゴホッ、こ、この胸の膨らみは……」


 真っ裸だった。胸の膨らみに気が付いて、俺は無意識のうちに手を伸ばしていた。そこには何故か、おっぱいがあった。ということは、まさか。


 いや、股間にはちゃんとあるな。その下に、男性にはないはずの穴もあるみたい。これは、両性具有というやつなのか。男だけど、女の体でもあるのか。


 今までとは全く違うパターン。スタートも性別も違う。これは、一体どういうことなのか。


 頭が混乱している。まさか、これは夢なのか。俺は、まだ小屋の中で眠ったままで夢を見ているのかも。妙に、現実味のある夢だなぁ。


「気が付いた?」

「誰だ?」


 女性の声が聞こえてきた。その部屋に他の誰か居た事に、今になって気がついた。俺は警戒しながら、声が聞こえてきた方へ視線を向ける。


「驚いたわね。もう、ちゃんとした自我が芽生えているのね。警戒心を持ってるし。周囲に注意を向けて、情報を得ようとしている」


 20代後半ぐらいの女性が目の前に現れた。白衣を着ている。俺の行動を、細かく観察しているようだ。


 全裸だった俺は、とりあえず股間を隠しておいた。その女性は、興味津々といった感じで、俺の顔を観察してくる。俺も彼女の顔を、ジッと見つめ返した。


「ほら。これで濡れた体を拭きなさい。自分で拭ける?」

「あ、はい」


 敵意は感じない。女性が差し出した布を受け取った。それで頭から順番に、濡れた体を拭いていく。腰まで伸びる長い、真っ黒な髪の毛。細い腕、大きく膨らんだ胸。成長しきった体。体を拭きながら観察した。もう既に、この体は成年に達しているのかもしれない。


「じゃあ、これを着て」

「……」


 次に女性は、とても質の高そうな衣服を目の前に差し出してきた。当然のように、女物だった。パンツだけは、男物なのかな。俺は、それを受け取るのに躊躇する。


「大丈夫よ。何も仕掛けてないから」

「どうも」


 彼女はニコッと笑って、俺を安心させようとしているみたいだ。仕掛けを警戒して受け取らなかったのではなく、女物の服装だったから戸惑っていただけだ。女性用の服を着ないといけないのか。


 とりあえず、彼女の手から服装を受け取った。これを着ないと、裸のままだから。早く着替えたい。この姿だと、落ち着けない。


 まず先に、パンツを履いた。かなり質の高い生地だ。丈夫そうで、肌触りも良い。


 そして、ブラジャーか。胸に当てて、肩ひもを通してから後ろでホックを留めるのかな。背中に手を回して、なんとか留めようとする。けれど慣れない手付きで、思うように出来ない。


「ほら、着けてあげる」

「ありがとうございます」


 その女性が俺の背中から、ホックを留めてくれた。お礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべて言った。


「ちゃんとお礼を言えて、偉いわね」


 褒められた。子供に接するような口調だった。なんとなく違和感を覚える。


 そのまま急いで、ワンピースを着た。白色の可愛らしいデザインが、ちょっとだけ恥ずかしい。服を着て、とりあえず落ち着いた。改めて、周りを見回してみる。


 あちこちに沢山の機械があった。どんな機能があるのか見ただけでは分からない。メカメカしい光景が広がっている。金属に囲まれた部屋の中のようだが。こんなの、久しぶりに見たな。全く別の世界だと、一目で分かった。かなり文明が発展している世界のようだけど。


 後ろを振り返ってみると、人間が入れるぐらいの大きな円筒ガラスがあった。中に液体が入っていたみたい。前方が開いていて、そこから外に流れ出たのか。どうやら俺は、この中から出てきたようだけど。


「落ち着いた?」

「はい」


 分からない事だらけ。質問したいことが沢山あった。目の前の女性が教えてくれるのだろうか。話を聞くために彼女の質問に答えて、落ち着いているアピールをする。


 その時、部屋の外から騒がしい声が聞こえてきた。


「おい、彼女はどうなった!」

「目を覚ましたか?」

「おぉ! 立って、こちらを見ているぞ」

「ちゃんと意識があるのか!」

「実験は、成功なのか?」

「早速、データを取らせろ」


 部屋の中に次々と、白衣を着た男達が入ってくる。ものすごい勢いで喋り出した彼らは、ジロジロと無遠慮な視線を向けてくる。まるで、実験動物に向けるような目で見てきた。その視線の圧に、押される。


「やめなさい、アンタたち! この娘が怖がってる」

「しかし、ようやく成功したんだ。貴重なデータを取り逃してしまうかも」


 血走った目で訴える、白衣の男達。そんな彼らの視線の間に割って入って、視線を遮ってくれる女性。しかし、実験とは何なのか。彼らが求めているものは、何だ。


「アンタたちの軽率な行動によって、これまで積み重ねてきた成果を駄目にするって可能性もあるのよ! 慎重に行動しなさい」

「うっ」


 女性に注意されると、肩を落とす男達。俺に向けられていた視線の圧が弱まった。そして彼女が振り返り、今度は俺に言う。


「うるさくして、ごめんなさい」

「いいえ、大丈夫です」


 何が起きているのか分からない。説明して欲しいと思う。だから、落ち着いている様子を見せて、彼女が説明してくれるのを待った。


「そう、ありがとう。ここはうるさいから、私のラボに移動しましょうか。そこで、貴女のことについて説明するわね。ついて来て」

「お願いします」


 とにかく、情報がほしい。ここはどこなのか。俺は、どうなったのか。今まで経験したことの無い転生先で、俺は戸惑い続けている。


 とにかく、この女性の話を聞いてみよう。そうしたら何か分かるだろうか。俺は、前を歩く白衣の女性の後ろに、ついていった。

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