3周目(異世界ファンタジー:騎士)

第15話 転生再び

(ッ! ……俺は、あの後、どうなったんだ? マリアは?)


 意識が覚醒した。死んだと思ったけれど、意識がある。どうやら俺は、生きているようだった。なんとか生き残ることが出来たのか。しかし、あの後どうなったのかが分からない。状況を知りたかった。


 体は、大丈夫のようだ。視界がぼやけていて、まだ本調子じゃない。だけど、腕と足は微妙に動かせる。体調も回復していて、先程まで感じていた頭痛や喉の痛みに、体のダルさは全て消えていた。治療してくれたのだろうか。


 確か、マリアが魔法で窓をぶち破った。部屋の中の空気を入れ替えていたと思う。その辺りの記憶が、曖昧なので自信がない。彼女は大丈夫なはず、だけど。


 苦しかった意識の中で、妹のマリアから必死に呼ばれていた事だけは、ハッキリと覚えている。


「ぁ……、ぅ……!」


 声が出ない。くそっ。誰か近くに居ないのか。人を呼ぼうと口を開けるが、思ったように言葉が出なかった。まだ、毒による後遺症が残っているのかもしれない。そう思っていた。


 この時の俺は、何が起きたのか、自分がどういう状況なのか全く理解できていなかった。あの後、自分は生き残ったんだと思っていた。しかし、それは間違いだった。




「おはよう、リヒト。目を覚ました?」

「!?」


 目が慣れてきて、周りの景色が見えるようになってきた。見知らぬ女性が俺の名を呼んで、顔を覗き込んでくるのが分かった。かなり大きな女性。


 なんとなく、既視感がある。


 いや、俺の体が小さくなっていて、大きいと感じているだけだ。前もそうだった。これって、まさか。


「どうだ? リヒトの様子は」

「大丈夫のようです」


 見知らぬ女性の後ろから、野獣のような男が顔を見せてきた。見てわかるぐらい、鍛え込まれた筋肉の大きな男。とんでもない大きさだ。これは、俺の体が小さいからではなくて、野獣の顔をした彼が、男性の平均を大きく上回るサイズの体をしているから、相対的に俺が小さく見えてしまうだけ。そう、思おうとした。


 そんな野獣みたいな男の大きな手が、俺の頭の上に置かれた。


「うむ。なかなか賢そうな顔をしているな」

「ぅぇっ!?(い、イテェ!?)」


 野獣のような顔した男の、大きな手で俺は頭を撫でられていた。男の力が強くて、撫でられている頭がめちゃくちゃ痛い。それに、握りつぶされてしまいそうな恐怖もあった。このパワーで掴まれたら、頭蓋骨が簡単に潰れてしまう。


「あぁ! 止めてください、テオ様。リヒトが痛がっていますよ!」

「おっと! すまんな、リヒト」


 ありがとう、見知らぬ女性の人。彼女に責められて、俺の頭を無遠慮に撫でていたテオ様と呼ばれた男が、慌てて手を離した。そして、俺に顔を向けて謝った。強烈な痛みから解放される。男に悪気はなかったようだけど、勘弁してほしいな。


「大丈夫? リヒト。テオ様が乱暴で、痛かったでしょう? ヨシヨシ」


 女性の心配する声。優しい手付きで、俺は彼女から頭を撫でられていた。残っていた痛みも消えていく。彼女の手は温かく、気持ちが良かった。まるで母親に抱かれているような、そんな安心感があった。


 それで、ようやく理解した。また、これか。


 俺は、女性の腕の中に抱きかかえられていた。やはり俺は、再び15歳の体から、小さな赤ん坊に戻っているようだった。いや、生まれ変わったのか。転生したということなのだろう。


「しかし、コイツは強くなるぞ。俺が頭を撫でたというのに、泣かなかったからな。息子たちの中で初めてじゃないか?」

「そんな判断をするために、我が子をいたぶるのは止めてください!」

「すまん、すまん!」


 テオの言葉を耳にした瞬間に、女性は目を吊り上げてカンカンに怒っていた。俺は女性の腕に抱かれたまま、そうだぞと彼女の意見に同意した。


「ぁぅ!」

「あぁ、ヨシヨシ。リヒトに怒っているわけじゃないのよ。このダメな男が、貴方をイジメるから怒っているのですよ」


 怒っていた声が一転して、優しく俺に語りかけてくる。安心するようにと、優しく背中をさすられた。大丈夫です、貴女の言うことは分かってますよ。


「う、す、すまん。クリスティーナ……」

「いつも、テオ様は乱暴なんですッ! ベアートの時も、そうでした! 泣いている赤ん坊を無理やりイジメて。もっと気をつけて接しないと、かわいそうです!」


 それから不満が爆発した女性に厳しく責められて、縮こまって謝り続ける野獣の男。それだけで、2人のパワーバランスがよく分かる。どうやら彼は、妻である女性には頭が上がらないようだ。そんな2人の間に生まれた子供が、俺なのか。


 しかし、なぜ俺は再び転生したのか理由が分からない。しかも何故か、俺の名前は前と変わらずリヒトのままだったりする。別人ではない、ということなのか。でも、両親の名前は違っているし、どう見ても前とは別人だった。


 2人の間に生まれた子供の俺は、前のリヒトとは別人の体だと思う。名前はリヒトと同じだけど。うーん、どういうことだ。


 問題は、ここがどこなのか。今が一体いつの時代なのか、ということだ。あの後、1人で残してしまった妹のマリアがどうなったのか、とても心配だった。


 クリスティーナと呼ばれた女性の腕の中に抱えられながら、部屋の中を観察する。石造りの部屋だった。俺達が暮らしてきた屋敷の中に、こんな感じの部屋があった。ということは、同じ世界なのか。マリアを残していった、あの世界と同じなのか。


 部屋の様子や、彼らの格好から現代という感じでもしない。彼女たちが会話して、話している言葉をちゃんと理解できている。なので、同じ世界にある別の場所に俺は生まれ変わったのかもしれない。


 女性の高級そうな白いドレスの格好に、革で仕立てられている男性の防具。


 どちらのデザインにも見覚えは無い。残念ながら、ここは俺の知っている土地ではないようだ。


 俺が、前の人生で過ごしてきた土地、ロウナティア王国のロールシトルト領に近い場所に生まれたのならいいけれど。早く確認したかった。今居る位置がどこなのか。


 とにかく、1人で残してきてしまった妹のマリアの様子が心配だったから。

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