2組に1組は婚約破棄をする
「あなた、わたしに言うことってない?」
「ん?」
わたしは焦っていました。
そろそろ、決めなければいけない時期に差しかかっています。
「ねえ、結婚式ってどうしようと思ってる?」
「一応やりたいかな。そろそろ場所や日取りを考えないと」
「そうね……」
ほら、もう時間がありません。
このままでは引き返せないことになってしまいます。
婚約破棄するなら、今しかない。
「あのね……ちょっと言いだしづらいんだけど……」
「結婚式やるのは恥ずかしいって?」
「ううん、その……わたしたちが結婚するの、正しいのかなって」
真意を探るような目でじっと見つめてくる彼に、わたしは続けます。
「結婚ってあたし、もっと気持ちが盛りあがるものだと思ってたんだけど、なんかちょっと最近ね……」
「おれが嫌になったってこと?」
「ううん、そうじゃないの。でも、結婚はちょっと違うかもなって気がしてきて」
価値観の相違でも、性格の不一致でも構いません。
とにかく穏便に婚約破棄しようと思いました。
すると彼は、
「そうか。おれも思うところはあったから、きみがそう言うなら婚約破棄しよう」
「ほんと?」
「そんな嬉しそうにされると傷つくけど。まあ、きみはあまり乗り気ではなさそうに見えてたし、おれに割いてくれる時間もそう多くなかったから、内心どうして婚約に応じてもらえたのかふしぎだったんだ」
「ごめんなさい」
わたしはすなおに謝りました。
彼の言うとおり、気持ちが入っていなかったのはたしかですから。
「わたしね、2組のうち1組は婚約破棄するって統計を知って、ちょっと焦ってた」
「そんなに高いの?」
「うん、コインを投げて裏が出るのと同じくらいの確率で婚約破棄されるんだって。だからわたし、全力であなたに飛びこむのが怖くって。婚約破棄になっても傷つかないくらいの感じで付き合ってたと思う」
「そうか……」
それから思い出話をすこし話し、彼はわたしと別れてくれました。
正直な気持ちをわかってくれて、わたしもほっとひと安心。
嘘は言っていませんから。
ただ、彼の他にもうひとり、婚約者がいることは告げませんでした。
重婚?
いいえ、両方と結婚する気なんて最初からありません。
わたしはコインを2枚投げただけ。
2組のうち1組が婚約破棄するなら、わたしが2組を兼ねてしまえばいいのです。
あやうく2枚とも表が出て、重婚になってしまうところでした。
さっきの彼には悪いけれど、それならそれで、条件のよいほうを選べばいいのです。
わたしは、もうひとりの婚約者ーーさっきの彼より容姿と収入がすこし好条件な彼に、電話をかけます。
「ねえ、そろそろ結婚式のこと決めない?」
「ああそれなんだけど、ぼく……きみとの結婚をすこし考えなおしたくて……」
2枚投げたコインが、2枚とも裏になるのは誤算でした。
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