美人に飽きて婚約破棄って嘘でしょ?
「美人は三日で飽きるって言うけど、顔自体に興味がなくなった」
これが、突然の婚約破棄を申しでた彼を問いつめて出てきた、その理由です。
意味わからないと思いませんか?
わたしはまったくわからないと思いました。
「わたしに飽きたっていうこと?」
「いや、顔で選ぶこと自体に飽きたという感じ」
顔以外を理由にしてほしい、と思いました。
自慢ですが、わたしは美人という自覚があります。
これまで付き合ってきた男たちもそう言っていたし、自分でも見て思うし。
いちばんの売りがこの顔だと思って生きてきました。
性格とか礼儀とか、顔以外のことについては、自然のまま気の向くままに振る舞っています。
だって無理しても仕方がないでしょう?
他はどうでもいいから、美人なことは認めていてほしい。
「わたしは美人だと思う?」
「うーん、もうわからない……。美しいというのが、よくわからなくなったんだよ」
「もうちょっと、わたしにも納得できるように説明してくれない? お願い」
わたしは懇願しました。
彼と婚約破棄するしかないというのは、もう受け入れるにしても。
何を言われているのかわからないままでは気持ちが悪いし、次の恋愛でどうすればいいのか対処法もわからなくなります。
彼はずいぶん悩んだあとで、
「豆、かなあ……。気づいたきっかけは、冷凍のグリンピースの袋を開けたときだったかもしれない」
豆。
わたしは黙って聞くことにしました。
「豆って全部同じに見えて、実際はそれなりに個体差があるんだよ。大きさもそうだし、かたちも、こう……きれいな球だったり歪んでいたり」
「うん」
「それを見ていたら、『人間の顔の違いも同じだな』って思って。たまたまちょっとずつ違うだけのもので、優れているとか劣っているとか、そういうのは違うと思った」
たまたま違うだけ……。
彼はわたしの顔をじっと見ながら続けます。
「きみの顔のかたちも、偶然の結果だよね。たまたま鼻がもっと低かったり高かったりしたら、こうはならない。その偶然性に美しいだの醜いだの評価をつけているんだとしたら、それってぼくが考えたことではないから、ぼくが従う必要はないんだ」
「うーん……よくわからないけど、偶然とは違うよ」
この美を保つために、わたしがどれほど努力しているかを説明しました。
思春期のころから肌を大切にして、紫外線もけっして直接浴びず、食べるものや運動にも日々気を配ってきました。
少女の美しさは神の贈りものかもしれませんが、大人の美しさは、意志の力です。
すると彼は、
「じゃあぼくといたいなら、その努力はやめていいよ。もう顔は関係ない」
「はあ? やめるわけないでしょ!」
何が豆ですか。
バカにするにもほどがあります。
わたしは即座に婚約破棄を受けいれ、彼とは完全に別れました。
わたしは美人なことが唯一の心の拠りどころです。
それを捨ててしまえば、それこそまさに、ただの豆です。
人の顔のちょっとした違いを、最大限に自分の魅力とアピールしてわたしは生きていきます。
それがわからない彼など、わたしの人生にはまったく近寄ってほしくありません。
ただ、ひとつーー
あの日以来、豆を見るたびにムカムカするのが悩みです。
植物性タンパク質は大切なのに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます