婚約破棄。そして誰もいなくなった
子どもの頃、『はないちもんめ』が好きでした。
2組に分かれて、友だちを取りあう遊びです。
あの子が欲しいと望まれて。
組のあいだを行ったり来たり。
人気のない子はなかなか欲しがられませんが、わたしはいつも「きーまった」のあとに名前を呼ばれていました。
そのときから、取りあいの的になるのが好きだったのかもしれません。
***
「わたし、婚約破棄したんだ」
そう言うと、男友だちは「え?」という顔をしました。
男友だちというと聞こえはいいのですが、婚約していたときの浮気相手です。
「どうして結婚やめたの?」
「ふふ、だって、あなたのほうが好きなんだもん」
そう甘えて抱きつくと、その晩は、とてもとても熱くなりました。
誰だって、自分が選ばれるのが好き。
わたしも、婚約してからたくさん男友だちができたので、その気持ちはわかりました。
婚約は選ばれることですけど、婚約者以外のかたから言い寄られるのも、選ばれた結果です。
わたしは、「あの子が欲しい」と言われる存在なのですから。
でも――
なぜだか、その男友だちとは、それっきりとなりました。
もう婚約破棄したから気兼ねなく遊んであげられるのに、連絡が途絶えてしまいました。
まあ、それならそれで、次がいます。
「あなたのために婚約破棄してきたのよ」
「そこまでおれのことを……」
選ばれるのは幸せなことです。
選んであげると、やっぱり熱く燃えてくれました。
婚約中にようやく気づいたのですが、この世には男の人がたくさんたくさんいるのです。
わたしを選んでくれる人も、いっぱいいます。
なんで婚約するまで見えなかったのか不思議でなりません。
あの人しかわたしにはいないと思い込み、取りあいの的になるのを忘れて、婚約してしまいました。
でも、婚約破棄で、『はないちもんめ』のやりなおし。
わたしは誰に選ばれるのでしょうか。
「婚約破棄したからあなたの好きにして」
また連絡が取れなくなったので、次の男友だちに甘えました。
やっぱり燃えてくれます。
婚約中もすごかったけど、婚約破棄の直後だってかなりのものでした。
「婚約破棄したから毎晩だってOKよ?」
また次の男友だちに声をかけました。
軽い女ではありません。
選んでくれたあなたを、婚約破棄してまで選んだのですから。
「えへへ、婚約破棄しちゃった」
『はないちもんめ』で最後まで選ばれなかったあの子とは違います。
みんなに選ばれて、それに応えるのです。
あなたを選んだわたしを、これからも大切にしてくださいね。
……あれ?
連絡のとれる男友だちが尽きてしまいました。
なぜみんな、選ぶと消えてゆくのでしょう。
婚約破棄したから、あなたのものなのに。
婚約していないわたしは選ばれないの?
「ううん、そんなわけない」
わたしは毎晩のように探します。
「きーまった」で、わたしの名前を呼んでくれる人を。
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