最終話 フレンド・オブ・オール・チルドレン
前回のあらすじ
大怪獣の雛に懐かれてしまった紙月と未来。
格好いいから、いいか。
「おいでタマ」
そう呼びかけると、地竜の雛は素直に未来に従った。
タマというのは紙月のつけた名前だった。しわがれた声でみゃあみゃあと鳴くので猫みたいだなと紙月が言い、そのまま勢いで名付けてしまった。未来はもう少し格好の良い名前が良かったのだが、しかし紙月の言うことも実にもっともだと納得してしまったので、仕方がない。
未来は出来た人間なので、紙月のそういう子供っぽいところも受け入れてやらねばならないのだった。
このタマと名付けた地竜の雛は実に賢く、簡単な指示や合図はすぐに覚えたし、また匂いや魔力、そう言った目には見えないものでも未来を認識しているようで、鎧を脱いでもすぐに未来と察して鼻先をこすりつけてくるのだった。
タマを連れて帝都を歩くには難儀があった。
なにしろ、馬車に乗せるという訳にもいかない。どこかに繋いでおくというのも物騒で仕方がない。かといって背中に乗っていくというのもどうにも不格好だし、第一とげとげの甲羅は座り心地がよろしくない。
また帝都から西部に帰るにしても、まさか《絨毯》に乗せていくという訳にもいかず、参った。
仕方なしに二人は大学に頼んで幌馬車を一台用立ててもらった。
これをタマにひかせて行こうというのである。
タマの体に合うように馬具を調整するには少し時間が必要だったが、それでも
タマもこのお荷物を最初は不思議そうに眺めていたが、未来と紙月が乗り込むと、成程成程というように何度か頷いて、それから手綱の合図もすぐに覚えて、立派な馬車引きとなった。
恐ろしい顔立ちも、夜ならばいざ知らず、一夜明けて朝が来て、日の光に照らされればそれほどでもなかった。ただすこうしばかり目がぎょろりとしていて、牙やら棘やらあちこちとげとげしているだけだ。道行く人も、しっかりとした幌馬車を引いていることもあって、ちょっと変わった
「……何事もなくてよかったっつうか、何事もなさ過ぎて怖いっつうか」
「紙月はつくづく心配性だよねえ」
「未来は肝が据わってんな。大物になるぜ」
別段度胸があるというつもりは、未来には全然なかった。ただ、なるようになることはなるようになるし、ならないようなことはどうあってもならないのだということを、子供ながらに知っているだけのことだった。
なんだったか、そう、ケ・セラ・セラだ。
それが未来の人生哲学だ。
ひょんなことからこの異世界に転生することになったのはさすがに驚いたけれど、でも、これも
「さて、紙月、これからどうしようか」
「そうだなあ。帝都観光って気持ちでもないし、当初の目的通りにしようか」
「じゃあ、まずは人探しのための人探しだね」
「いよいよお使いゲーめいてきたな……」
未来はあまり気にしてはいないが、紙月は元の世界に帰ることにこだわっている。またそうでなくても、元の世界の住人がいるかもしれないというのは、確かに気になることだった。
海賊討伐の依頼で知ったところによれば、この世界には
問題はその人物を探す手段なのだが、これもすでに伝手を入手していた。
「人探しぐらいしか取り柄のない女、ねえ」
「いまの僕らにとっちゃこれ以上ないくらい欲しい才能だよね」
「全くだ」
海賊のお頭、もとい海運商社の社長であるプロテーゾに紹介状を書いてもらった人物の肩書はこうだった。
「『探偵』ドゥデーコ・ツェルティード、ね」
「なんか心くすぐられる響きだよね、探偵って」
「わかる。探偵って必ずしも名探偵とかそういう感じじゃないんだろうけど、ちょっと盛り上がるな」
しかし問題はまず、慣れない帝都で指定の住所を見つけ出すことだった。
「まあ、でも、歩いてれば見つかるでしょ」
「本当に肝が据わってるよ、お前は」
「
「Whatever will be, will be、ね。そう思えるってことは、度胸あるってことさ」
「それは……褒められてる?」
「いつだって手放しで褒めてるよ」
「それはそれでなあ……肝心なところで締めて欲しいよ」
「難しいお年頃だな、全く」
みゃあみゃあとしわがれた声で、タマが鳴いた。
それはどちらに賛同するとも知れない鳴き声で、二人はなんだか不思議とおかしくなって噴き出したのだった。
用語解説
・
甲羅を持った大型の馬。草食。大食漢ではあるがその分耐久力に長け、長期間の活動に耐える。馬の中では鈍足の方ではあるが、それでも最大速力で走れば人間ではまず追いつけない。長距離の旅や、大荷物を牽く時などには重宝される。性格も穏やかで扱いやすい個体が多い。寿命も長く、年経た個体は賢く、長年の経験で御者を助けることも多い。
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