第十二話 悪意と戦え
前回のあらすじ
その依頼、請け負った。
「よっしゃ、急ぐぞ!」
「よしきた」
豪華な天幕からスピザエトを連れ出し、三人は未来の手綱を取る
「地上からでも場所分かるか?」
「
「成程ごもっとも!」
スピザエトの指示は、確かなようだった。
というのも、巣があると思しき方角へ駆け出した途端、統率の取れた
「紙月! 大丈夫!?」
「この程度なら大丈夫だ! FPSで慣れてる!」
「ほんと多芸だよね!」
襲撃は散発的なものから、やがて明確に進路を妨害するような派手なものになってきたが、この程度で妨害されるようなら、紙月たちは地竜など殺していないし、山など吹き飛ばしていない。
「《タワーシールド・オブ・シルフ》!!」
未来がスキルを使用すると同時に、突き進む
進行方向の
そうして前方の障害が排除されれば、横と後ろから襲い掛かってくるものたちを、紙月が振り浮きざまに平然と蹴散らしていく。
「《
指先をわずかに向けるだけで、業火が、また熱線が恐るべき恐竜たちを焼き払っていく光景に、スピザエトは大いに恐れをなし、そして憧れの視線を受けた。
「おお、すごい! すごいのじゃ!」
「そうとも! お前が見出した冒険屋はすごいのさ!」
「一応ぼくもすごいことしてるんだけどなあ」
「ミライもすごいのじゃ!」
「ありがと」
驀進していく三人の行く先に、ついに巣らしきものが見えた。
平野にできた窪地に、何十頭もの
これだけをみれば、大自然の大きな営みとして、おそれを持って眺めることができたかもしれない。しかしことは人間の里に及んでしまっているのである。大自然がなんだ、共存共栄がなんだといいながらも、結局のところ、人は人である以上、自分達の営みをこそ優先しなければならない。
お互いの縄張りを犯そうという以上、必ずやしっぺ返しが来るのである。
「悪いが、これ以上増えられても困るんでな!」
「恨むんなら恨んでおくれよ!」
「未来、閉じ込められるか!」
「成程! 《ラウンドシールド・オブ・シルフ》!」
紙月が唱えたのは、自身を中心にして円状に空気の結界を張る《
「ぎあっ!?」
「ぎゃあっ! ぎゃあっ!」
「それじゃあお次は、どうするかな。食われた分の素材は返してもらおうか」
「どうするの?」
「こうするのさ!」
紙月の指が翻る。
「《
空想のキーボードが叩かれ、空中にいくつもの水滴が浮かぶ。それらは《
「そんで、解除!」
それらが一斉に解き放たれるや、結界内の
むしろ水を浴びせられたことで、かえって怒り出している。
「あんまり効いてないみたいだけど、どうするの」
「仕上げに入る」
「仕上げ?」
空想のショートカットキー、次のリストは氷冷属性である。水属性から派生するこの属性は、静かだが、苛烈だ。
「《
どこからともなく押し寄せてくる冷気は、紙月が指を走らせるごとにその強さを増していく。そして未来の閉ざす風の結界に巻き込まれ、その内側を猛烈に冷やしていく。急激に冷やされた空気に、まず反応するのは水だ。
巻き散らかされた水が、次第にぱきぱきと音を立てて凍っていく。それは地面にぶちまけられた水だけではない。
「そおら……凍りつけ! 《
異界からの冷気がすべてを凍り付かせるまでに、物の数分もかからなかった。
「ま、これで……しばらくの食糧にはなるだろ」
「食べ切れなさそうだなあ」
「そんときゃ売ってもらうさ……っぷし」
「かわいいくしゃみ」
「うるせ」
そして余りの光景にスピザエトをも凍り付かせ、いままで大変失礼いたしましたと頭を下げさせるに至ったのだった。
用語解説
・《タワーシールド・オブ・シルフ》
《
範囲内の味方全体に効果は及ぶが、使用中は身動きが取れず、また常に《
『シルフは気まぐれだ。約束という言葉をまるで知らない。だがもしもそのシルフを縛り付ける言葉があるのならば、それは絶大な効果を及ぼすだろう』
・《ラウンドシールド・オブ・シルフ》
《
自身を中心に円状の範囲内の味方全体に効果は及ぶが、使用中は身動きが取れず、また常に《
『風の扱い方を覚えるんだ。風は気まぐれだが、理屈を知らない訳じゃない。理屈が嫌いなのは確かだが』
・《
《
『水を凍らす程度の冷気じゃが、わしらはこの冷気がどこから来るのか、そのことさえもいまだわかっとらん。異界から、というのはちと、ぞっとせん話じゃな』
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