第十話 天狗嫌い
前回のあらすじ
助けた少年はスピザエトと名乗った。
紙月たちは彼と話してみるが、特におかしな点はない。
「
帰り着き、リーダー格の冒険屋が依頼主に話を通している間、エベノの弓遣いに聞いたところ、
「もともと
「はあ」
「大叢海の連中はもう、なんだ。天井知らずだよ」
「天井知らず」
「
詳しく聞いてみたところ、たしかに
しかし大叢海の
遊牧民たち平原の民は、草原の民と一つの大部族の下にあるというのが体裁だが、実際のところは大叢海から出てくる気のない
それでも大昔に杯を分けた仲だとかでいまもなあなあで関係は続いているものの、
これは成程わかる話である。
あるが、紙月は激怒した。
「それと子供に何の関係があるってんだ!?」
「落ち着け、落ち着けシヅキ」
「落ち着けるか!」
何しろ自分も子供を連れて歩いている紙月である。ただ
しかも腹の立つことはまだ続くのである。
一応チャスィスト家も大人であるから、相手が天狗であるかどうかは別として、大事な資産である
「なに、巣がある?」
「そうじゃ。連れのものと近くを飛んでおる時に、
「なんと……」
「わしはこれはいかんと思ったのじゃが、連れが捨て置けと我儘を言うので、振り払って、近くに見えた天幕、つまりここを目指したのじゃ。
この話を聞いて、チャスィスト家の人々は会議を執り行うとして天幕にこもった。
ローテーションをどうするか、冒険屋たちに任せて襲撃するのか、警備はどうするのか、そう言った会議が行われると思われた。
しかし長い会議を経て、明けて翌朝、紙月たちに伝えられたのは現状のローテーションを維持せよとの指示だった。
「どういうことだ?」
「どういうことだっていってもな」
首をかしげる紙月に、エベノの弓遣いは辺りをはばかりように伝えてきた。
「つまり、情報源が信用できないんだろう、連中は」
「なにっ」
「俺に怒るな。まあ落ち着いて考えろよ」
つまり、こういうことだった。
大叢海の
ここにきて平原の民の怒りはかなりのものとなっており、次回のクリルタイでもたもとを分かつことを宣言するのではないかとされている。
そんな中で、たまたまはぐれた天狗が
遊牧民たちはこぞって罠を恐れたらしい。嘘の情報ならばまだよし。しかし、もしその巣というのが、天狗たちの後押しによってできたものならばどうするか。そのような不安まであるのだという。
「こんな子供まで疑うか!?」
「こんな子供だからだろう。大人の
「子供を使った騙しとまで疑うのかよ……」
そう言われればわからないでもない。
平原の民はもうずいぶんと草原の民に虐げられてきているのだ。その感情を思えば、一概に子供だからどうのなどという紙月の意見は薄っぺらいものなのかもしれない。
「むーん」
とはいえ、じゃあそれで平原の民の言うことに従えるかと言えばそういう訳でもなかった。
平原の民には平原の民の言い分があり、スピザエトにはスピザエトの訴えがあり、そして紙月には紙月の感性というものがある。
「未来、お前はどう思う」
「大局的っていうやつを考えるなら、おじさんたちの言うことも、もっともなんじゃないかな」
「お為ごかしはよせやい」
「ふふ。じゃあ決まってるよ。ぼくら、冒険屋だぜ?」
「よしきた」
用語解説
・冒険屋だぜ?
つまりそういうこと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます