プロローグ
【前回までのあらすじ】
原作ゲームにおいては嫉妬に狂って破滅する運命にある、未来の悪役令嬢ソフィア。
彼女の執事として転生したシリルは、お嬢様が破滅しないように大切に育てた結果……自分が攻略対象ポジになってしまい、お嬢様から嫉妬される立場になってしまう。
シリルは数々の破滅フラグを回避しながら、お嬢様を幸せへと導いていく。
そんなある日、シリル達は身分を偽った王女が仕切る生徒会へと加入。この世界の礎となるゲーム『光と闇のエスプレッシーヴォ』の戯曲を文化祭で演じることとなる。
それは転生者であるシリルを見つけるための罠。その罠に自ら飛び込んだシリルは、自分と同じ転生者――前世の姉と再会する。
姉の思惑に乗って死にゆく定めだった王女を救ったシリルは、その報酬として自分が知らなかった原作の続編、『前夜祭』の存在を知らされるのだが……
【お知らせ】
*本日より3章の投稿開始。
次回は明後日、30日に投稿予定です。
悪役令嬢の執事様、一巻は4月3日(金)
KADOKAWA ドラゴンノベルスより発売です!
詳細は近況ノート、もしくはなろうの活動報告にて。
***本編***
戯曲『光と闇のエスプレッシーヴォ』を演じたり、お忍びで学園生活を送っていた王女殿下の命を救ったり、慌ただしい文化祭が終わってから数週間が過ぎた。
そんなある日の放課後。
ソフィアお嬢様を馬車の前までお送りしたところで、俺が馬車に乗らないと気付いたソフィアお嬢様に「一緒に帰らないのですか?」と問い掛けられた。
「申し訳ありません。今日はトリスタン先生に呼ばれているのです」
「……最近、多忙なようですね?」
俺はソフィアお嬢様の専属執事であると同時に、使用人コースの生徒でもある。どちらが優先かと問われればもちろん専属執事だが、先生の呼び出しを無下にする訳にはいかない。
お嬢様ならば当然理解しているはずなのだが、さきほどの言葉にはトゲがあった。
とはいえ、これに関しては仕方がない。
フォル――いや、フォルシーニア殿下が社交界に復帰する足掛かりとなる、王族主催の身内パーティーに招かれてから今日まで、俺はソフィアお嬢様の側を離れがちだ。
社会勉強の一件では闇ギルドへ何度も足を運び、フラウの人形師の一件では、捜査の一環でイザベラとデートまがいの行動を取った。
俺がなにをやっているかはともかく、なにかやっていることは耳に入っているだろう。
ずっと守ると誓ったのに、側にいないことの方が多い。お嬢様がジト目で俺を睨みつけるのももっともだ。だから――と、お嬢様の顔を覗き込んだ。
「私が初めてお嬢様の前に立ったとき、私が誓った言葉を覚えていますか?」
「わたくしが楽しいときはもちろん、寂しいときも、苦しいときも、どんなときだって側にいてくれる。わたくしの味方として、ずっとずっと守ると、そう言ってくれましたね」
よどみなく返された言葉に軽く目を見張る。側にいるという約束は覚えてはいても、ノータイムで諳んじてみせるほど詳細に覚えているとは思わなかった。
思わず頬が緩んでしまう。
「その通りです。私はその約束をいまも忘れておりません」
「その言葉を疑ってはいません。でも……無理はしないでくださいね?」
「かしこまりました」
「かしこまるだけじゃダメです。ちゃんと約束してください。じゃないと信じません」
ソフィアお嬢様が疑いの眼差しを向けてくる。
言いたいことは分かる。
貴族の娘たる者、簡単に言質を取らせるような発言をしてはならない。嘘を吐くのではなく、真実を曖昧にするようにしろ――と、そう教えたのは俺自身だから。
俺がはぐらかしたことにも気付いたのだろう。
「約束します。今後も色々と暗躍はいたしますが、決して無茶はいたしません」
「……そして、自分にとってはこの程度、無茶でもなんでもないと言い張るのですね?」
「よく出来ました」
悪戯っぽい笑みを返すと、お嬢様がふくれっ面になった。
少し冗談が過ぎたようだ。
「失礼いたしました。では、決してお嬢様を悲しませないと誓いましょう」
お嬢様の髪を一房だけ指で掬い上げ、その美しいプラチナブロンドに誓いのキスを落とした。とたん、ソフィアお嬢様の頬が真っ赤に染まる。
「シ、シリル。誰かに見られたらどうするのですか。せ、責任、取ってもらいます……よ?」
「ご心配には及びません」
「――えっ?」
「誰かに見られるようなミスは決して犯しません」
「……えぇ?」
「という訳で、私はトリスタン先生のところへ向かいますので、お嬢様はお屋敷にお戻りください。今日はヴァイオリンの先生がいらっしゃる予定ですよ」
「……シリルのいじわる」
お嬢様はむぅと唇を尖らせて、馬車に乗り込んでいった。そうして馬車が走り去るのを見届けて、俺はトリスタン先生の待つ王城にある研究室へと向かった。
城門で手続きを踏んで、王城にある研究室へと顔を出すと、トリスタン先生はなにやらペンを走らせていた。俺に気付くと、彼はペンを置いて顔を上げる。
「よく来たな、シリル。呼ぶのが遅くなってすまない」
「いいえ、お互いに忙しい身ですからね」
彼は転生者であり、前世の姉である。だが、そのことを知っているのはごく一部の人物だけなので、クラスの担任に対する生徒として彼に接する。
「ここしばらくヤキモキしていたんじゃないか?」
「多少は。ですが、もし早く知らせなければ手遅れになるような案件なら、多少の無理を通しても連絡してくださったでしょう?」
姉の性格はむろん、トリスタン先生の性格も原作でそれなりに知っている。なにより、フォルの一件での立ち回りを見れば分かる。
姉とトリスタン先生が混ざった彼は、必要があれば手段は厭わない人間だ。今回そうしなかったのは、情報の伝達を急ぐ必要がなかったからに違いない。
「まぁその通りだ。もっとも、関わりを絶つには不可能なところまで来ているがな」
「……そう言えば、前夜祭は既に始まっているとか?」
フォルを通じて受け取った伝言だ。
彼女は詳細を識らなかったようで、伝言自体もぼかした内容だったが、前夜祭――つまりは原作『光と闇のエスプレッシーヴォ』の二作目の舞台時期が今頃であることは伝わった。
そもそも、名前からして前夜祭だからな。
一作目より少し前の時代、つまりは今頃であることは想像に難くない。
「その通りだ。既にプロローグは終わっている。だが、この状況から被害を最小限に抑えることは可能だろう。もっとも、それはおまえに掛かっていると言っても過言ではないがな」
「聞かせていただけますか?」
問い掛けると、トリスタン先生は俺をソファの席に案内した。どこからともなく現れた女性が俺達の前にお茶を並べてくれる。
「リネット、悪いが少し席を外してくれ」
「ええ、もちろん。お二人の尊い時間を邪魔したりしません」
……尊い? と首を傾げて立ち去る彼女の後ろ姿を追い掛ける。
「心配するな。あれは天然だ」
「……は? 天然?」
リネットと呼ばれた女性が退出するのを見届けて視線を戻す。トリスタン先生はなにやら、額に手を当てて溜め息をついていた。
「言動が、な。乙女ゲームどころか、BLの知識までありそうだが、俺が探った限りじゃ、あいつに前世の記憶なんてものはない」
「ははぁ……なるほど」
言われてみると、俺達を見て尊いと呟く姿は少し……その、前世の姉を見ているようだった。だが転生者ではないので、この世界に存在する天然、と。
「それはともかく、これで俺達の他には誰もいない、楽にしてくれてかまわないぜ?」
「……いえ、お気持ちだけ受け取っておきますよ」
内心では前世のような言葉で思考しているが、言葉にするのは丁寧語の方が板についている。いまさら前世のようにしゃべるのは違和感がある。
「ふっ、まぁそうか。俺もこのしゃべり方の方が馴染んでいるからな」
「たしかに、その姿で姉さんのしゃべり方は違和感がありますね」
ちょいと渋めのイケメン。
それでお姉さん口調とか、色々と業が深いことになりそうだ。
「っと、話がそれたな。話を戻そう」
「……お願いします」
重要なのは前夜祭のあらすじとキャスト。
どんな内容を聞かされても驚かないようにと気を引き締める。
「まずヒロインは、フォード伯爵家のご令嬢、おまえも良く知っているパメラ嬢だ」
「そう、ですか。彼女がヒロイン……」
左目の下に泣きぼくろがある艶やかなお嬢様。中等部の受験でダイエットがたたって倒れた彼女はいま、ソフィアお嬢様の派閥に所属している。
「まぁたしかに、彼女との関わりを絶つのは不可能ですね。既に同じ派閥ですから。もっとも、良好な関係と言うことでもあるので、あまり心配することもなさそうですが」
「いや、問題はシリル、おまえだ」
「私、ですか?」
「そうだ。アリシア嬢とアルフォース殿下が出会うイベントと同じように、パメラ嬢とランスロット殿下の出会うイベントがあったんだ。それを……」
トリスタン先生がなんとも言えない貌で俺を見る。その瞳の奥に、姉の呆れた姿が滲んでいるような気がした。姉がそんな顔をする心当たりは一つしかない。
「まさか……」
「そのまさかだ。おまえが、メインルート担当の王子、ランスロット殿下の代わりにイベントを起こしている」
「――っ」
ランスロット殿下とはすなわち、第一王子のことだ。
トリスタン先生いわく、中等部の入学試験で倒れたパメラを介抱するのがランスロット殿下であり、メインルート担当であるゆえんだったらしい。
「……私が倒れる彼女を抱き留めたあれですか」
「そうだ。そして原作では、医務室へと運ばれた彼女と出会うだけだった。だがおまえは自分の試験を放棄してまで、彼女が倒れる前に抱き留めた」
「……そう聞くとイベントが大きくなっていますね。ですが、いまのところ、私が第一王子のポジになっているような兆候はありませんよ」
アリシアのときは、自分が第二王子ポジになる可能性なんて夢にも思っていなかった。
だがいまは違う。
俺の下手な行動がソフィアお嬢様の闇堕ちに繋がると分かっているのに無頓着ではいられない。女性からの好意には別段気を使っている。
たしかに、パメラは自分を救った俺に好意は抱いているかもしれないが、それは感謝の気持ち以外の何物でもない。俺が彼女の攻略対象ポジになることはないだろう。
「パメラ嬢はもともと積極的な性格ではないから安心は出来ないが……たしかに、そちらについては杞憂かもしれんな。だが問題は悪役令嬢の方だ。三人いる」
「……は?」
「前夜祭の主要な攻略対象の三人に、それぞれ悪役令嬢が設定されているんだ」
「ソ、ソフィアお嬢様級の悪役令嬢がさ、三人も、いる……?」
ソフィアお嬢様一人だけでもこの国を支配できそう能力の持ち主なのに、そんな人物が三人とか……世界が滅ぶのでは?
「落ち着け。ソフィア嬢が飛び抜けて優秀なのは、おまえの教育の賜物だろう」
「……あぁ、そう言われてみればそうですね」
原作のソフィアお嬢様は闇堕ちしていたが、権謀術数などの能力は決して高くなかった。原作のソフィアお嬢様と同レベルであれば、そこまで危険ではないかもしれない。
「まぁそのうちの一人は、ソフィアお嬢様なんだがな」
「うぉいっ」
思わず素で突っ込んでしまった。
いや、だって……ヤバイだろ? あのソフィアお嬢様だぞ? 自分の目的のためなら神々、つまりは王族すら敵に回すと公言して、それを実行するだけの能力もあるお嬢様。
彼女が再び悪役令嬢として闇堕ちするルート……?
いや、落ち着け。原作と現実では事情が異なっているのだから、ソフィアお嬢様が闇堕ちする可能性はないはずだ。……俺が余計なことをしない限り。
「ちなみに、ソフィアお嬢様が悪役令嬢を担当するルートって言うのは?」
「ソフィアお嬢様の下の兄、アーネスト坊ちゃんだ」
……アーネスト坊ちゃん?
パメラがアーネスト坊ちゃんと結ばれる可能性は理解できるが、それでソフィアお嬢様が悪役令嬢として立ちはだかる?
いや、それ以前に――
「アーネスト坊ちゃんにはエスコート相手がいるはずですが?」
現在留学中の彼は来年からロンドベル学園に戻ってくる予定である。
だが、アーネスト様はいつも同じ女性を連れていた。エスコート相手が必ずしも婚約者とはならないが、血縁ではない異性をエスコートする場合は大抵が婚約者か婚約者候補だ。
パメラによる寝取り展開、なのだろうか?
その場合だと、その女性が悪役令嬢ポジで闇堕ちしそうなんだが……
「おまえにしては調査不足だな。その相手はたしかにアーネスト坊ちゃんの幼馴染みだが、決して恋仲ではない。互いに風よけにしているだけだ」
いまのはトリスタン先生としての情報。
そして原作をプレイした姉さんの情報によると、憎からずは想っているようだが、少なくとも悪役令嬢となって邪魔をしてくるような相手ではないらしい。
「じゃあ、ソフィアお嬢様が悪役令嬢として立ち塞がるというのは……?」
「大好きなお兄様を取られておかんむり、という訳だな」
その情報を元に、ソフィアお嬢様とアーネスト様の関係を思い浮かべる。だが、普通に仲は良好だが、兄を取られて闇堕ちするほどとは思えない。
「あまりイメージがわきませんね」
「それは、現実のソフィアお嬢様を見ているからだろう」
「なるほど、前夜祭ではそうだった、と」
光と闇のエスプレッシーヴォにおいては、とくにそういった描写はなかった。
つまりは前夜祭で追加された設定と言うことだろう。だが、原作のソフィアお嬢様は家族愛に飢えていたので、一つ年上の兄に懐いていてもおかしくはない。
いや、それよりも問題なのは――
「まさかとは思いますが、ソフィアお嬢様が破滅する可能性があるのですか?」
「それはない。だが……いや、だからこそと言うべきか。最終的にはパメラ嬢の味方になってくれるのだが、無印で破滅するのが分かっているだけに切なくなるという……」
「それはまた……」
悪役令嬢として振る舞いつつも、合間に見せる優しさで人気のあったソフィアお嬢様だ。前夜祭でそんなことがあれば、ますます人気が出るに決まっている。
なのに救われないとか……酷すぎる。
「いや、物は考えようですね。破滅しないのなら心配する必要はない。アーネスト坊ちゃんのルートに入ったとしても、ソフィアお嬢様が闇堕ちすることはないでしょう」
「むしろ危険なのは、パメラ嬢の攻略対象がおまえになっていたときだな」
「……ぐっ」
たしかにそれは怖いが、パメラにその兆候はない。なにより、既にアリシアという前例があるのだから、万が一の場合でも、上手く立ち回ればなんとかなるだろう。
「そっちはひとまず置いておくとして、ランスロット殿下のルートにおける悪役令嬢と、その大雑把なシナリオを教えていただけますか?」
「第一王子のルートは、フォルシーニア殿下が悪役令嬢となる」
「……フォル先輩が?」
彼女が悪役令嬢化すると言われても腑に落ちない。
そう思ったのだが、ストーリーを聞かされて納得した。
原作におけるこの時期、ランスロット殿下は婚約相手を決めるように周囲から急かされていた。ソフィアお嬢様が親の権力を使い、アルフォース殿下と婚約を果たしたからだ。
次期国王、王太子の地位に就くのは第一王子のランスロット殿下が有力だった。だが、第二王子がローゼンベルク侯爵家と結びついたことでそのバランスが崩れたのだ。
だが、ランスロット殿下が密かに憧れていた仲の良い従姉、フォルシーニア殿下は不治の病を患っている。死にゆく定めであるがゆえに婚約者として選ぶことが出来なかった。
なのに、周囲はランスロット殿下に婚約者を定めるように迫ってくる。その状況に嫌気がさしていた彼は、伯爵家の令嬢であるパメラと出会う。
最初は友人として悩みを打ち明け合うような関係になる。そこから互いの事情を知って惹かれあっていくのだが、フォード伯爵家ではローゼンベルク侯爵家には敵わない。
ゆえに、従弟を心配したフォルがパメラを試すために、悪役令嬢として立ちはだかる。
だが、最後にはフォルの試練に打ち勝ったパメラを認め、ランスロット殿下のことを任せて息を引き取る。ラストは二人でフォルのお墓参りというエンドになるらしい。
「……悪役令嬢に恨みでもあるんですか、シナリオライターは」
「努力が報われることもあれば、報われないこともあるというのがテーマらしいな」
報われない人がいるから、報われた人が輝いて見える、か。人を惹きつけるシナリオとしては正しいのかもしれないが、登場人物になった身としてはたまったものじゃないな。
「だが、おまえのおかげでフォルお嬢様の病はもはや死病ではなくなった。ソフィアお嬢様が婚約していないことも考えれば、通常通りのルートに入る可能性は低い」
「そうですね。危険は少ないでしょう」
仮にパメラとランスロット殿下が恋仲になったとしても、それほど大きな問題はない。フォルも死にゆく定めから逃れた以上、過激な行動を取ることはないだろう。
ただ、彼女はトリスタン先生の教えを受けている。だから万が一にでも敵に回すと大変なことになりそうだが……そんな展開にはならないはずだ。
「では、残りの一組はどうですか?」
「フレイムフィールド皇国の第三皇子と、その腹違いの妹である第七皇女だ」
「こっちも妹ですか……」
悪役令嬢は妹が二人と、従姉が一人。
今回の隠れテーマはブラコン、なんだろうか?
「彼のルートは自分から踏み込まなければ関わる可能性は低い。ただ、彼の妹は能力が突出しているため、関わった場合は注意が必要だ」
「……フラグにしか聞こえませんね」
と言うか、トリスタン先生に育てられたフォルと、俺が育てたソフィアお嬢様。そして元から能力が高い隣国の皇女。
悪役令嬢が三人とも、能力的に突出してると言うことだよな。パメラがどのルートに入るかは不明だが、さり気なく気に掛けた方が良いかもしれない。
「たしかにフラグっぽいが、ひとまずは保留で問題ない。彼らが留学してくるのはおまえが三年になってから。まだ一年以上あるからな」
「ゲーム本編の開始が三年生になってから、と言うことですか?」
「いや、本編は二年と三年の二年間だ」
なるほどと頷き掛けて、ふと首を傾げる。
「……フォル先輩は卒業まで生きられないと聞いた記憶があるのですが、それをフォル先輩に伝えたのは貴方では?」
「絶望の中にも救いは必要だからな」
「……そう言うことですか」
余命一年と聞いて半年で亡くなれば絶望しかない。だが、余命三ヶ月と聞かされた上で半年生きれば、自分は頑張ったのだと少しの達成感と共に死んでいける。
それが卒業まで生きられないと告知した理由。
むろん、転生者として目を付けた俺を焚きつけるような思惑もあったんだろう。
「あぁそれと、前夜祭では攻略対象の三人を同時に攻略しようとすると、悪役令嬢の三人を敵に回して破滅する。現実で心配する必要はないはずだが、注意だけはしておけ」
「……それは、ご忠告感謝します」
パメラが三つ股を掛けるなんて想像できないが、万が一にもソフィアお嬢様レベルの悪役令嬢を三人敵に回す展開はヤバすぎる。
「まあ、前夜祭のルートはそれだけだ」
攻略対象が少ないなと思ったが、前夜祭はファンディスク的な立ち位置らしい。すなわち、無印の攻略対象とのサブストーリーとかが入っているそうだ。
「色々と助かりました」
「いや、おまえにはフォルお嬢様を救ってもらったからな。これくらいのことは恩返しにもならない。それに、おまえは……」
トリスタン先生が俺の顔をジッと見つめる。
その瞳の奥に、俺を気遣う懐かしい色が見えた。彼――いや、彼女が途中で止めた言葉の続きが手に取るように分かる。
「心配してくれてありがとう、姉さん」
「いまは伯父、だがな」
俺は笑って、それからもう一度感謝の言葉を告げて研究室を後にする。
差し当たって気を付けるのはパメラの動向。俺が彼女の攻略対象ポジになることは避けなくてはならない。それと、パメラが三つ股を掛けて破滅する未来も避けなくてはいけない。
それらさえ避ければ、ソフィアお嬢様が闇堕ちすることもなく、特に危険な展開にはならないだろう――と、このときの俺は考えていた。
だがそれは、根本的な部分での思い違いだった。
その事実を、俺はこのあとの邂逅で知ることになる。研究室を退出して、城を出ようと廊下を歩いていた俺の前に、ランスロット殿下が姿を現したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます