訳も分からず助けられた
落ちる時、本当に世界がゆっくりと動いていた。走馬灯というのだろうか、昔の記憶が蘇ってくる。幼稚園の頃から友達は少なく、親と公園に行き1人で間遊ぶのが好きだった。小学生に入り、在り来りないじめにあい、女子から嫌われた6年間。中学では隣町の小学生も入学してきて、羅美がいじめられていることはすぐに知れ渡り、リーダーのような男の子にいじめられるようになったこと、リストカットを始めたこと、薬を沢山飲んでも死ねなかったこと。こんなことばかり思い出して、飛び降りたことに後悔はなかった。
地面まであと50cm、目を瞑ったその時に声が聞こえた。
「お前の力が必要なんだ。」
目が覚めた。天国に行けるほどいいことをして生きてきた訳では無いが、草むらの上に寝転がっている自分がいる。よくわからないが草の匂いもするし体が透けることも無い。ふと遠くの方に、街のようなものが見えた。とりあえず何が何だかわからないし、そこへ向かって歩き出した。
途中、森を通って、転んで擦り傷も出来た。痛かった。あたし本当に死んでるの?訳が分からないがなんとか街の入口のような所に着いた。もっと訳が分からなかった。
「なんやねん…この人、人なんか?」
ゲームでしか見た事ない、どこだここは、兎の耳の生えた女の人…?それに、豚鼻というか、本当に豚の鼻がついている男が八百屋のような所で見たことも無い黄色の果物のようなものを売っていた。街を歩く者は皆動物を擬人化したような、人と呼んでいいのかわからなかった。兎の耳の女の人に話しかけられた。
「あなた、傷だらけだけれども大丈夫ですか?私の家は薬を作っているの、治してあげるから着いてきてちょうだい!」
え、ちょ、まってまってまって、日本語喋れんの?!ここがどこだとかもうどうでもいいから死にきれなかったのならもう一度飛び降りればと思ったが兎の耳の女の人は話し続ける。
「そういえば名前を言ってなかったわね、私はラビー家の長女、レニアン・ラビーよ。あなたの名前はなんて言うの?」
パニックだったがとりあえず答えないと行けないと思い、名乗ることにしたが、話をまとめるのが苦手な羅美はパニックのまま話してしまった。
「結島羅美、結島鉄工所の長女…飛び降りたんよ、死にたくて!そしたらここにいたんだけど、というか少し向こうに草原があるやろ?そこに目が覚めたら倒れててん!えっと…レニアン?とりあえずここどこか教えてや!あたし死んでんの?生きてんの?ここ何県?!」
レニアンは質問攻めにされて戸惑っていた。それを見て羅美はまたやってしまったと思った。いつもこうだ、人の話を遮ったり話し続けすぎてしまってみんなに迷惑をかけてしまう。でも、レニアンは優しく微笑み全てに答えてくれた。
「ゆいしま…らみ?変わった名前なのね。とりあえず歩きながら話しましょう。死にたくて飛び降りたらここに居たってことは、あなたはこの世界の人ではないようね。その、ケンってのが何なのか分からないけれど、ここはルネシアという、どこの国にも所属しない街なの。」
レニアンが言うには、動物の形をして生まれてくる一族が人の形をした人たちと合わなくて、争いが起きる前に街を隔離し、そこで動物の形をした人々は暮らしているという。ただ、やはり日本語は通じるのに何故か日本を知らないし、羅美がこの世界に来た訳はわからないらしい。10分程で歩いて着いたところは、なんというか、やはりゲームやアニメでしか見たことないような薬局…?のような場所だった。
「お母さん、えっと…旅人さんが街の入口で傷だらけで立っていたから連れてきたの、傷を治してあげてくれないかしら?」
奥から白衣を着たレニアンの母らしき人がでてきた。ただ、森を抜けてきたことを話すと二人とも驚いた顔をしていた。羅美が通ってきたあの森は、夜になると魔獣が人を襲うことで有名で、昼間でも怖くて近寄る人は居ないという。魔獣と言われてもピンとこなかったが、とりあえず傷の手当をしてもらいながら話を聞いていた。
魔獣はその昔、この街を隔離するために当時の町長が周囲を森で囲み、魔女と契約を交わしよそ者が入らないようにするために魔獣を放ったという。しかし、最近魔獣が増えすぎていて夜は街の中でも外に出れないくらい危ないらしく、駆除するために戦っている人物がいるという。その人物は、羅美と同じく気がつくとこの街に居て、数年間は近くの八百屋で働いていたという。そう、あの豚の鼻の男のところだ。あの男はルドット・ピーグというらしい。ルドットはその人物と五年ほど暮らしていたから羅美ご何故ここに来てしまったのかもわかるかもしれないと言われ、手当が終わったら地図を書いてもらい訪ねてみるように言われた。
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