第298話 カイエのやり方
カイエはリゼリアを閉じ込めている結界を素通りして――結界の内側に新たな認識阻害を展開する。
「これで俺たちは外の奴らに認識されないから。何を喋っても、おまえの部下には聞かれる事はない」
カイエの冷徹な目がリゼリアを見据える。
「リゼリア……今後、魔族を捕らえたり、殺すのは一切禁止だ。まあ、神の化身と魔神のゲームで、本人が同意の上で殺し合いをさせるのは構わないけどさ。魔法で操って、ゲームに参加させるのは駄目だ……勿論、人族についても同じだからな」
カイエは予め抜け道を塞いだ上で。
「この条件を飲めば……リゼリア、おまえたちを開放してやるよ。そして約束を反故にしない限り、俺たちはおまえに干渉しない」
リゼリアは逡巡する――自分がカイエに勝てない事は散々思い知らされており。カイエは永遠にリゼリアを閉じ込め続ける事も出来るだろう。
本来の力を開放すれば、カイエに一矢報いる事は出来るだろうが、それでも殺されるのはリゼリアの方だ。
カイエがいないときに、力を開放して結界から逃れたとしても――神の化身と魔神たちが取り決めた制約を破る事になり、結局リゼリアは殺される。
結界を破った直後に、再び自分に制約を掛ければ、他の神の化身や魔族たちに殺されても精神体に魔力の大半が残り、復活する事は出来るが……
こちらの世界で復活すれば、すぐに再び殺される事になり。向こうの世界に舞い戻ったとしても……十万単位の人族や魔族を道連れにする事は出来るが、最後はカイエに殺される事になる。
(魔族や人族を道連れにしたところで……数百年間も復活出来なくなるのだ。全く割に合わぬ!)
カイエに対しては、自分を殺せば元世界に戻ると脅しはしたが――本当にそんな事をするつもりはないのだ。
向こうの世界にはアルジャルスやエレノアもおり。リゼリアが暴れ回ったところで、勝目などない。
(精神体のまま潜伏する事は出来るが……それでは何も出来ぬ! ああ、忌々しい……完全に手詰まりではないか!)
それでも……カイエの良いなりになるなど、リゼリアのプライドが許さなかった。
それに、こんな条件を飲めば、部下たちもリゼリアがカイエに屈したと思うに違いない。絶対的な支配者であるリゼリアが、他者に屈する姿を見せるなど……
(そのような屈辱を……許容出来るものか! ならば……)
リゼリアは思考の闇を彷徨いながら――不意にカイエの表情の変化に気づく。
漆黒の瞳は冷徹な光を放ったままだが――カイエは口元だけに笑みを浮かべていた。
「貴様は……我を何処まで愚弄するつもりだ!」
リゼリアは思わず怒りの叫びを上げるが。
「だからさ……リゼリア、勘違いするなって。これだけじゃ、おまえが納得しない事くらい解ってるからさ。もう一つ、条件を追加してやるよ」
何を言い出すのかと、訝しげな顔をするリゼリアに。
「魔族の代わりに……昔みたいに
リゼリアは
「おまえ一人で実験してるのも退屈だろうからさ……俺たちも
カイエは魔族を救う事が出来て、リゼリアは自由を取り戻して面子も失わない――確かにお互い得な話だと、リゼリアは思う。
「ほう……悪くはない話だな」
「だけどさ。口先だけで約束して、俺に隠れて魔族を狩り続けるつもりなら……止めておけよ。おまえの国の周りにある中立地帯は、全部俺が支配する事にしたからさ。
何かあれば、全部報告させるし。魔族や人族が一人でも行方不明になったら、全部おまえのせいだって――おまえが俺に喧嘩を売ったって思うからな」
「な……」
思惑を見透かされて、リゼリアは言葉を失う。
「しかし……魔族や人族が行方不明になるなど、珍しい事ではなかろう?
「リゼリア、何を言ってるんだよ……俺が支配するんだから、下らない殺し合いなんてさせないし、住人の安全は俺が保証するよ」
カイエが支配すれば、規律によって領内の争いを止めさせる事は可能だが。それでも争いを一切なくす事なんて出来ないし、不慮の事故も完全に防ぐ事も、全住民を四六時中
結局のところ、これはリゼリアに対する牽制であり。そこまでしなくても、リゼリアと部下を監視するだけで、彼女の思惑を封じる事は出来る。
「まあ、おまえたちが犯人じゃないって証明出来る場合は見逃してやるよ……疑われたくないなら、部下たちに中立地帯には不用意に近づくなって命じる事だな」
厳しい条件を突き付けてから、後から条件を下げて相手に飲ませる――カイエはリゼリアの思考を誘導して、術中に嵌めていく。
「それで……どうするよ、リゼリア? 俺としては……おまえを永久に閉じ込めておいても、構わないけどさ」
他の道を封じて、妥協できる唯一の選択肢を残す――『
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