第183話 その日の夜
ギャゼスの店での食事の後――
アイシャとクリスの二人には、黒鉄の塔に泊まって貰うことにした。
バーンとアレクは普通に宿屋に泊まっているのだから、差別だと言えなくもないが。アイシャは半分仲間みたいなものだから、黒鉄の塔には彼女専用の部屋があるのだ。
クリス一人だけ宿に泊まらせる訳にもいかないから、『是非、アイシャ様と同じ部屋に!』などと言い出しかねない彼女のために、別の部屋を用意したのだが――
「ラ、ラクシエル師匠……ありがとうございます」
今夜のクリスは心ここに在らずという感じで。素直に従って、自分の部屋に入って行った。
「カ、カイエさん……おやすみなさい……」
様子がおかしいのはアイシャも一緒で――膝の上に座るという体験のせいで、カイエを物凄く意識しており。まともに顔を見ることすら出来ず、逃げるように自分の部屋に駆けこんでいった。
「さすがに……やり過ぎだろ?」
二人が部屋に引き上げた後。カイエは一人、風呂に入っていたのだが。
「ホント……カイエって、酷い男よね」
アリスが意地の悪い顔で笑いながら、当然のように乱入してくる――全裸で。
「いや、少なくともアイシャの方は俺のせいじゃないだろ? おまえらこそ、あんまりアイシャを
普段一緒にいないアイシャを構いたいという気持ちも解らなくもないが……と、アリスの裸にも全く動じずに、カイエはナチュラルな反応をする。
「そうよね……今日は悪ノリしちゃったけど。あと二、三年もしたら、もっと警戒しないとね」
やはり当然のようにローズが隣に入って来る。
「ああ……気をつけないと。アイシャだって、いつまでも子供じゃないんだから」
「ていうか……もう、手遅れだと思うよ。それよりも、クリスの事だけど……ねえ、カイエ。どうするのさ?」
エストとエマも――以下、同文。
「ぼ、僕は……な、なんだかライバル指定されたみたいだけど……」
堂々と乱入した四人とは対照的に……今回初挑戦のメリッサはタオルで身体を隠して、全身を真っ赤にしながら入って来た。
「メリッサ、おまえさ……無理する必要なんて無いからな?」
呆れた感じで、カイエは苦笑する。
「む、無理なんてしてないさ! ぼ、僕は絶対に……(クリスには)負けないから……」
何だかんだと言って、メリッサはクリスを意識しているようで。今回勇気を振り絞って風呂に入って来たのは、そのせいだろう。
「だからさ……俺がメリッサとクリスを比べるなんてあり得ないって。おまえだって、もう俺たちの仲間なんだからさ……それくらい、気づけよ?」
「カイエ……」
メリッサは、さらに真っ赤になって、熱に浮かされた表情で見つめる。
「そうよ、メリッサ。あなたのことは、みんな認めてるんだから。もっと堂々としてなさいよ」
「そうね……そんな風に、色々と隠す必要なんて無いんだから」
いつの間にか背後にいたアリスが、いきなりタオルを奪い取る。
「な……何をするんだ!」
必死に身体を隠そうと蹲るメリッサに――
「えー! そんなに恥ずかしがってたら、ダメだよ!」
「そ、そうだな……ここには、私たちしかいないんだから。は、恥ずかしがる必要なんて……無いだろう?」
いまだに恥ずかしがっている自分に言い聞かせるように、エストまで参戦してくる。
「う……うん、そうだね! ぼ、僕だって……頑張らないと!」
生まれてたばかりの小鹿のように足を震わせて、羞恥と戦いながら懸命に立ち上がろうとするメリッサに――
「いや、そこは頑張らなくて良いから……」
カイエはジト目になって、ボソリと言った。
「なあ……ロザリー? おまえも、そろそろ機嫌を直せよ」
脱衣所で一人頬を膨らませている幼女に、カイエが気づいていない筈もなく。
「カ、カイエ様……な、何を言ってるのかしら? ロザリーちゃんは全然、怒ってなんかいないのよ!」
ロザリーは反論するが、声の不機嫌さは全く隠せていなかった。
カイエの膝の上にアイシャが座ったことに――本人は絶対に認めるつもりは無いが、ロザリーは相当衝撃を受けていたのだ。
そんな彼女の反応に、ローズとエマは妹に対するような優し気な笑みを浮かべると、
「ごめんね、ロザリー! 私たちが、悪かったわよ」
「うん、ホントごめんね。だから……ロザリーも、こっちにおいでよ!」
「え……」
何が『だから』なのか――全裸の二人は脱衣所に突進すると、パジャマ姿のロザリーを抱き抱えて戻ってくる。
「ローズさん、エマさん、何を……」
「ロザリーも、私たちの仲間なんだから!」
「そうそう、お風呂はみんなで一緒じゃないと……ほら、パジャマなんか脱いじゃって!」
「ま、待って欲しいのよ……キャャャャ!」
本気で悲鳴を上げるロザリーの服を、二人は『良いではないか!』という感じて引き剥がす。
さすがに犯罪だろと、カイエは黙って背を向けるが――
「わ、解りましたわ……ロザリーちゃんだって……」
ロザリーの覚悟を決めた言葉が、背後から聞こえたので……
「もう、勝手にしろよ」
カイエは色々と諦めるしかなかった。
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