第41話 サービスカット
塔の二階層目の半分以上のスペースを使って浴室が作られており――大理石作りの巨大な浴槽には、なみなみとお湯が張られていた。
旅の間も『
オルフェンの街でも、宿に簡単な風呂はあったが――こんな風に、たっぷりとしたお湯に浸かるのは、王都を出発してから初めてだった。
「うーん……気持ち良い! やっぱりお風呂は最高だね!」
湯気で視界が曇る浴室で、エマは湯船に浸かりながら大きく伸びをする。
日に焼けた健康的な肌と、しっかり鍛えられているのに出るところは出ているしなやかな身体は――アイシャから見ても眩しかった。
「カイエの奴……こんな良いものがあるのに、何で隠してたのよ?」
湯船に酒瓶を浮かべて――アリスはホッカリとしながら、しっかりと文句だけは言っていた。
エマと比べると色々な部分が少し控えめだが――肌が上気したスレンダーなボディーは妙に艶っぽくって……少女のアイシャすら、少しイケない気分になってしまう。
「そんなことを言っても……アリスが一番文句を言っていただろう?」
エストは何と言うか……思いきり着痩せするタイプだった。
いつもは絵に描いたような堅いイメージの知的美人が、服を脱ぐと――その滑らかな白い肌と、いかにも柔らかそうな肢体、そしてリラックスすると少し幼くなる表情が相まって――隠れ○乳美少女に変身していた。
「そうよねえ……アリスだけは、お風呂のことで文句を言ったら駄目だからね!」
そしてローズは――浴室の中でも勇者(女)だった。
赤く長い髪に彩られているのは――完璧に均整の取れたボディーラインと、微かにピンク色の肌。それを一切隠すことも無く堂々と晒して、湯船に入ってくる。
「ところで……カイエは何処に行ったのよ? せっかく、一緒にお風呂に入ろうって思ってたのに!」
「ローズ、あんたねえ……ここには私もアイシャもいるんだから、さすがにカイエが入れる訳ないでしょう?」
アリスはグラスを傾けながら、呆れた顔をするが――
「え……何でよ? お風呂くらい、みんなで仲良く入れば良いじゃない?」
ローズが本気で言っていることが解ったから――アリスは思わず溜息をつく。
「そうよね……ローズにとっては、みんな『大好き』だから、一緒にお風呂に入るのも当たり前なのよね?」
「うん! だって……こんなに気持ち良いんだもん! 大好きなみんなで、一緒に楽しみたいと思うでしょ?」
満面の笑みを浮かべるローズが――お風呂せいで少し上気していてるせいか、物凄く可愛く見えて……思わず抱きしめそうになる自分を、アリスは必死に抑えていた。
(あれ、私ってもしかして……カイエに焼きもちを焼いてるだけなの?)
突然自覚した感情に、アリスは真っ赤になるが――
「……ア、アイシャ! 大丈夫?」
自分の発展途上の身体と、四人を見比べて――隠れるように湯船に浸かっていたアイシャは、完全にのぼせていた。
「うーん……エミーお姉様……」
エマに担ぎ出されるアイシャを眺めながら――『……何だかなあ?』とアリスは思っていた。
※ ※ ※ ※
女子チームのお風呂タイムが終わった後――カイエは一人でゆっくりと湯船に浸かってから、塔の最上階にあるダイニングキッチンへと戻ってきた。
ダイニングキッチン――と言うよりも、鎧戸を開けると壁全体がガラス張りの窓になる空間は、天上の
「カイエ……その、何て言うか……」
カイエの姿を見ると――エストが顔を真っ赤にして、思わず目を逸らす。
「……何だよ、エスト? 変な反応をするなよ?」
風呂上がりのカイエは――上半身裸で、タオルで髪の毛を拭きながら部屋に入って来た。
ほんの少しだけ彼女たちよりも背の高い身体は――『魔神』などと呼ばれるのとは正反対で、華奢で胸も薄かった。
「えっとね……カイエってさ、思っていたより……」
どちらかと言うと――思わず抱きしめて守ってあげたくなるような姿に、エストとエマはギャップ萌えしていた。
「もう、カイエったら……そんな格好をしてたら、風邪をひくでしょう?」
そんな姿にも慣れているせいか、或いは『正妻』故の余裕なのか……ローズは一切恥ずかしがることも無く、カイエの傍に寄ると――タオルを奪って、甲斐甲斐しい感じで髪の毛を拭いている。
「おまえなあ……俺の方がずっと年上だって、何度も言ってるだろう?」
「はいはい……そんなこと、私は解ってるから……」
そんな二人の様子を――エストとエマ、そしてアイシャまでが……羨ましそうに眺めていた。
「……どうでも良いけど。私はお腹か空いているのよね?」
そんなアリスの一言で――空気が変わって、他のメンバーも空腹であることを思い出した。
「……ホントだよね? 私はお腹が空き過ぎて……もう我慢できないよ!」
「エ、エミーお姉様……ごめんなさい! でも……」
アイシャは堪え切れなくなって、思わず笑い出す。
「そうだよな……エストの旨い夕飯を、みんなで食べようか?」
「え……ああ、そうだな! みんな空腹だろうから、早く食事にしようか!」
その一言が新たな火種となることに――カイエはまだ、気づいていなかった。
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