48.変わり果てた幼馴染①(怖さレベル:★★★)

(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)

『30代男性 日下部さん(仮)』


先日、同窓会があったんですよ。


高校生の時の、なつかしい集いで。

十年前の友人たちに会って、楽しく話なんてしたりして、

そこで意気投合した何人かと、改めて連絡先の交換もしたりして。


そん時はそんな感じで、

なんてことなく終わったんです。


そして、本題はここからでして。


それから数日後、連絡先を交換した一人、

山岸という同級生から、連絡が入ったんです。


『会って相談したいことがある』と。


俺はそのメッセージに、少しばかり警戒をしました。


学生時代、もちろんクラスメイトではあったので、

会話くらいは交わしたことがありましたが、

特別仲が良かったか、と聞かれると疑問が残る間柄です。


それなのに突然相談したい、とくれば、

金に困っているか、宗教勧誘か。


ボクはその誘いに、仕事の事情で時間を作れない、

と一度は断りました。


経験上、この手合いは相手が断りを入れた場合、

他の人にさっさとターゲットを変えるので、

それでもう連絡もしてこないだろうと思っていたんです。


しかし、断りを入れたその数日後、

再び彼から通知が入りました。


内容は以前と同じ。

しかし、文末に文章が追加されていました。


『お前の幼なじみだった、金安さんの件で、至急』


と。


その金安というのは、先日の同窓会には不参加だった女性です。


学年で一、二を争う美人で、

今は芸能界で働いている、なんてウワサがありました。


「金安の件……?」


個人名までハッキリ出されているとなると、

先に邪推した内容の相談ではなさそうです。


その金安とは、高校卒業後、

別々の大学に行ったため、腐れ縁もそこで途切れていました。


ならばと、結局彼の言う通りに時間を合わせ、

山岸と再び会うことにしたんです。


チェーンのファミレス店で、

俺は奴と一体一で向かい合わせに座りました。


連れらしき者もおらず、危惧していた勧誘ではないようで、

ひとつホッと息をつきました。


適当に安いランチを頼み、

注文をとった店員が去っていったところで、

俺は満を持して尋ねました。


「……で? 相談、ってのは」


水で喉を潤した山岸は、人目を気にするようにキョロキョロと周囲を見回し、

(ならファミレスじゃない場所を指定しろという話ですが)

声を潜めて言いました。


「メッセージにも入れたけど……金安、さんのコトで」

「こないだの同窓会、来てなかったよな。なんか関係あるのか?」


同窓会の出席率は約六割程度で、さして気にも留めていなかったですが、

この様子ではなにか理由があっての欠席だったのでしょう。


山岸は、一瞬ためらうようなそぶりを見せた後、

ぐっと下唇を噛み締め、ひとつ頷きました。


「なぁ日下部。実は……オレ、金安さん……いや、ケイコと付き合ってるんだ」

「……はっ!?」


俺は思わず、まじまじと山岸を見つめました。

彼は確か、同窓会でカメラ関係の仕事をしていると言っていました。


芸能界にいるというウワサの金安と、接点があったのかもしれません。


それにしても、あの派手なタイプのケイコが、

失礼ですが、割と地味目のこの山岸と付き合っている、とは。


「ケイコさ……芸能界にいる、ってウワサになってただろ?

 でも、モデルとか、タレントとしてじゃなく、普通に内部スタッフとして、で」

「え、そうなの?」


そんな彼の告白が少々意外で、俺は真剣に続きを促しました。


「ああ……そんで、テレビの取材で、俺の勤めてる事業所に依頼が来てさ。

 打ち上げの時に、あいつ、実はめっちゃ悩んでるんだって打ち明けてきて。

 あいつ、あんなに美人なのに……上には上がいる、

 自分は華やかなテレビのステージには立てないって」


彼女は、幼なじみの俺が言うのもなんですが、

かなりの勝気で、自分の美貌にぜったいの自信を持っていました。


そんな彼女が、弱音を吐くような世界。

俺には想像もできませんが、かなりハードな業界なのでしょう。


「そんな話聞いてたらたまんなくなっちまって。

 俺、学生ん時からケイコに憧れてたけど、

 高校ん時ってもっと高飛車な感じだったじゃん。

 でも、打ち上げの時のあいつ、ふつうの女の子みたいでさ」


カラン、と運ばれてきたアイスコーヒーの氷を鳴らしつつ、

山岸は遠い目で続けました。


「そんで、一年半くらい前から、あいつと付き合うようになったんだ……」


そこで、彼は話に一区切りつけるように、目を閉じました。


「へぇ……良かったなぁ。そこまでなら羨ましい話、だけど。

 ……なんかあったのか?」


まさか、これから延々とノロケを聞かされるわけではないだろうと、

俺は自分のハンバーグを切り分けながら首を傾げていると、


「ああ。……最近、ケイコ、おかしいんだよ」

「……おかしい?」


脈絡のない言葉に、俺は末尾を反すうしました。

彼はそれに頷くと、ぐしゃ、と片手で自分の頭を掻きまわし、

か細い声で語り始めました。


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