22.秋祭りのお面②(怖さレベル:★★★)
「いや、うん、大丈夫だって。あの看板、来るとき見たし……」
宮田と茶化したポップなデザインの看板が目に入り、
ヒヤヒヤしつつ道を曲がった、その時です。
「……アレ?」
その更に先。
電柱の影に、
なにかがサッと隠れました。
「……んん?」
細い電柱。
とても人が隠れられぬ太さのそれに、
猫か? と期待しつつ裏へ回るも、
「おーい、猫……アレ?」
ひょい、と覗きこんだそこには、
なんの姿もありません。
「うーん……?」
猫にしてもずいぶん素早いな、
と感心していると、
――ヒュッ。
また少し先の、
電柱の影で気配が揺らぎました。
「ん……まさか、子ども?」
猫にしては、こちらを弄ぶかのようなその動きに、
幼い子どもがふざけているのかと、
ジッと電柱を注視します。
「……よーし」
しかし、一歩、二歩、近づいても、
息遣いも聞こえなければ、なんの物音もありません。
「わっ!」
バッ、と両手を上げて電柱の影に身を乗り出すも、
「……えっ」
またもや、
なんの影もありません。
「い、いやいや……」
どうにも変です。
猫にしろ子どもにしろ、
一度も視線を外していないのに、
どこかへ移動することなど、できるはずがない。
オレが、
妙にうすら寒いものを感じていると、
「――ッ!?」
少し先の、曲がり角。
住宅の塀に囲まれた狭い道の端から、
小さなお面が半分、覗いているのです。
「……宮、田……?」
そう、それは先ほど宮田が購入していた、
可愛らしい女の子キャラクターのお面です。
それが、鼻を隔てて上半分だけ、
チラリとこちらを伺うかのように飛び出しているのです。
「お、オイオイ……お前、なに脅かそうとしてんだよ」
元々、茶目っ気のある男です。
今回もトイレと偽って、
ドッキリさせようと企んだのだろうと、
オレは半ばニヤケつつ、じりじりと近寄りました。
「姪っ子にあげるんだろ、それ。いいのかよ、使っちゃって」
いつものような調子で話しかければ、
ヒュッとお面は曲がり角の先へ引っ込みます。
「宮田くーん」
オレは、
茶化しつつその曲がり角を覗きこみました。
すると、その細い道の更に先――
人が一人、やっと通れるかというその道の、
更に奥の曲がり角から、
またあのお面がヒョッコリこちらを見ているのです。
「オイオイ、こんなトコ通ったら車んトコ行けなくなるだろ?
さっさと戻ってこいって」
オレは、呆れ半分で言い放ち、
宮田のことは放っておくことにして、
さっさと先に進みました。
どうせ、相手してもらえなくて、
慌てて後から追ってくるに違いないのです。
そうしてスタスタと先に進んでいけば、
「……えっ?」
二つ立ち並ぶ自動販売機。
その奥から、
また――あの仮面が覗いているのです。
「……お、い」
あの曲がり角で置いてきたはずなのに、
どうして先回りしているのか。
「宮田、妙な遊びは止めろって……
姪っ子にやるのに、汚れちゃマズイだろ……?」
カスカスにかすれた声を、
精一杯の虚勢を持ってその相手に投げかけます。
しかし、目前のお面をつけた宮田らしき人影は、
まるで微動だにしないのです。
「……おーい、聞こえるか?」
一歩、足を踏み出します。
ザッ、とアスファルトの上を擦る靴裏の音が、
やけに大きく耳に残りました。
「宮田。……なあ、悪ふざけはやめろって」
半分だけこちらを覗く仮面は、
ニコニコと笑む可愛らしい女の子の面です。
だから、それゆえに――
途方もない程に、不気味でした。
「……なあ」
秋風が、
ブワッと道の端の落ち葉を巻き上げます。
「お前……ホントに、宮田なのか?」
――シン。
冷たい沈黙が落ちました。
気付けば、自分の歯の根はガチガチと震えていて、
全身を撫でる風は真冬のように冷え冷えとしています。
曲がり角から覗く無機質なその面は、
一瞬ピクリ、と動いて――ヒュッ、と引っ込みました。
「あっ、ちょっ」
オレは何故かそれに惹かれるように曲がり角の方へ
進もうとしました、が。
「オーイ! なにやってんの、山崎」
「……み、やた?」
後ろから、
荒い息を吐きつつ同僚が声をかけてきたのです。
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