11.登山道の鳥居①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

『20代女性 河本さん(仮名)』


その……信じてもらえるかどうか。

なんとも……言えない話なんですよ。


そう、アレは……去年の話です。


私は、社会人になって疎遠となっていた友人たちと、

ひさびさに会う予定を立てたんです。


高校時代、山岳部だったので、

でも本格的な山登りはブランクがありすぎるので、

軽めの山歩きを楽しもう、って話になって。


山ガールとかって、

ちょっと話題になった時期がありましたよね?


その流れでハマったタチなんですが、

最初は遊び半分だったものの、

ズブズブと山の魅力にとりつかれまして。


県内の主要な山を制覇するくらいには、

熱心に活動したわけなんです。


そんな仲間たちでしたから山歩きの提案は大賛成で通り、

とはいえ社会人の身の上、

当日は欠席者も出たりして、三人で会うことになったのです。


「おー、二人ともひさしぶり!」

「ホント、ひさしぶりだねー。うわ、河ちゃん、老けた?」

「アッハッハ、そういう小野里は変わってないね! あと、東も」


などと再会の会話もほどほどに、

私河本と友人の小野里、東の三人は、

舗装された初心者コースをゆっくりと登り始めました。


その山は登山ルートがみっつほどある、

よく整備されたとても難所とはいえない山で、

高校自体にもよく訪れていた見知った場所です。


勝手知ったるなんとやら。

私たちは昔話に花を咲かせつつ、

のんきに山歩きを楽しんでいました。


――と。


「アレ?」


最初にそれに気づいたのは小野里でした。


「ねぇ二人とも。こんなところに鳥居なんてあったっけ?」


そう。その山道の脇、

木がうっそうと生い茂った山沿いに、

大人一人がようやく下をくぐれるほどの

うすぼけた赤い鳥居が鎮座していました。


「えーっ……たぶん、なかったと思うけど」

「んー……そーだね……」


私も東も、何度も通った道とはいえ、

そのあたりの記憶が妙にぼんやりとしていて自信が持てません。


あったと言われればあったような気もするし、

なかったと言われれば……というような、曖昧な感覚。


「ねえねえ、ちょっとこの先行ってみない?」

「え……小野里、本気?」

「平気へーき! 初心者コースの途中にあるんだし、危険なトコじゃないって!」


そうウキウキと笑う彼女は、

ふだんは二児の母で幼い子どもにつきっきり。


滅多にないという山歩きの機会を、

誰よりも楽しみにしていたのが彼女でした。


未開拓のルートがあるなら突き進む!

という破天荒な性格は学生時代そのままです。


「ひがっちゃんだって気になるでしょ?」

「そりゃあまぁ……」


声をかけられた東も、

普段は受験生たちを相手する塾講師。


勉強が好きで民俗学や宗教学を専攻していたというだけあり、

神社仏閣への好奇心は人一倍なのです。


「ねー、河ちゃんもいいでしょ?」

「んーそうだね。行こっか」


せっかく見つけたのだから、と私も彼女たちにならって

ちょっと寄り道をすることにしました。


鳥居の先の道には、土に埋め込まれた平たい石が、

まるで道を示すように奥へ奥へと続いていて、

木ややぶのせいでその先がまったく見えません。


「けっこう歩くね……」

「なーに、河ちゃん。体力落ちたねぇ」

「ま、まだまだ行けるけどっ」


茶化してくる小野里に強がりを返しつつ、

歩きつづけて十五分。


すぐに姿を現すかと思っていた社は、

未だ影も形もありません。


「はー……ぜんっぜん見えないね」

「もーちょっとだって!」


若干疲れの表情も見えてきた東に対しても、

小野里は爽やかに言って先頭を歩いていきます。


さら歩いて、五分、十分。

会社のデスクワークでなまった身体が悲鳴を上げだした頃。


「あ……また、鳥居」


そう。最初の場所にあったのと同じような鳥居が、

目の前に現れたのです。


「は~……つっかれたぁ」

「もー、ヘトヘトだよ……」


目印が見えたことでホッとした東と私は、

パンパンになった足をさすって、少し休むことにしました。


しかし、小野里はふだん二才と四才の男児を

相手にしているゆえか体力があり余っているらしく、


「先に様子みてくるー!」


と叫んで先に行ってしまいました。


「小野里、めっちゃパワフル……」

「やっぱ母は強しってヤツかねぇ……」


と、独身女子二人で彼女を見送り、

水分をとったり汗を拭いたりしてから、

彼女の後を追って鳥居に向かいました。


「お。神社発見」


その鳥居のすぐ先に、

小さな社らしきモノがありました。


「あれ、小野里いなくない?」

「どっか祠の裏の方でも見てんじゃないの」


などと話をしながら、

鳥居をくぐった瞬間です。


――キィィイイン


強烈な耳鳴り。


「ッ、痛……っ」


ギリギリと締め付けられるような強い頭痛。


「河本、どした?」


となりの東は、とつぜん頭を抱えだしたこちらに

訝しげな表情を浮かべています。


「ごめ……なんか、急に。高山病かな……」

「この山の標高で? 大丈夫? さっきんトコ戻ろっか」


彼女の言う通り、このくらいの高さで高山病など

ほぼ考えられないのですが、まったく無いとは言い切れません。


さきほどの休憩地点へ戻ろうと鳥居から外へ出た瞬間、

フッとなにかが抜けるように身体が楽になったのです。


「あ……なんか治ったみたい」

「そう? でももうちょっと休んでた方がいいよ。

 あたし、小野里呼び戻してくるわ」


東は再び鳥居を取って返し、

小野里が行ったはずの社の方へと歩いていきました。


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