004 エクストラナンバー

「これは言い訳にすぎませんが、あのスナイパーアレイという機体はチート過ぎます。ステルスレーザーなど聞いたことがない」


 <紅蓮剣ぐれんけん>のナガモリが珍しく愚痴をいう。


「確かに、あの機体のスナイパー機能は特別だ。おそらく、<失われた古代兵器エクストラナンバー>のひとつに違いない。衛星兵器まで使えるとは我が同盟でも入手したいところだ」


 鬼虎同盟の盟主、鬼虎徹きとらとおる同盟ギルドチャットでナガモリの報告に応じていた。

 <失われた古代兵器エクストラナンバー>とは<刀撃ロボパラ>の中で希に地下迷宮などの遺跡で発見される古代兵器である。

 <刀撃ロボパラ>では遺跡探索も重要なクエストで、重要拠点の遺跡から古代の遺物を発掘すれば高値で売却できることが多い。

 それは同盟の貴重な収入源になるし、仮に遺跡を支配できれば古代の超兵器を自分の部隊に配備できるようになる。

 現状、遺跡を完全支配できた同盟は皆無と言われているが、獣型機動兵器である<ボトムウォーリアー>の起源は古代の超兵器であり、遺跡から発掘された遺物である。高出力のレーザー兵器を搭載するなど、<ボトムストライカー>などの通常機体にはない機能を有していた。

 鬼虎同盟と同盟員200名の<YUKI no JYOU>同盟は、虎型と龍型を産出する遺跡近くに同盟の本拠を建設し勢力下におき、虎型と龍型の<ボトムウォーリアー>を独占的に遺跡探索で発掘している。


 <YUKI no JYOU>同盟はY川県に本拠をおく、IMT.COMという会社の竜ヶ峰雪之丞りゅうがみねゆきのじょう社長が盟主を務めている。

 アダルトビデオレンタル会社の経営者からいつのまにか、AV業界を統一し、その豊富なキャシュフローを基盤にして、ネットのDVD通販からネット動画の配信を立ち上げ、その後、FX、英会話、公営ギャンブル、太陽光発電、ロボット事業、格安携帯、3Dプリント、通販、婚活サイト、電子書籍、ネットゲームなど多種多様な事業を展開している。


 特に大手出版社のネットゲーム部門と組んで大ヒットした<刀剣ロボットバトルパラダイス>によってネットのオタクたちに知られるようになり、その流れでついに、ネット小説投稿サイト<ネット小説パラダイス>を立ち上げた。通称<ネットパラ>と呼ばれる。

 何故か花魁おいらんのコスプレをした竜ヶ峰雪乃丞社長率いるIMT.COMは、<作家でたまごごはん>の規約違反で削除になった小説家を拾い、<ネットパラ>の人気作家に育てるという手法で急成長し徐々に勢力を広げていった。

 

 だが、ラスボス<スケルトン中華ロボ>の暴走によるログアウト不能の強制参加イベント事件以来、<刀剣ロボパラ>は半年間、閉鎖されて、現在の<ロボットバトルパラダイス>としてリニューアルオープンした。

 その時に実装されたのが遺跡発掘クエストであり、以前は重要拠点の<城>を制圧して同盟の収入源とするゲームシステムであった。

 遺跡発掘クエストは<ロボパラ>のゲームシステムに深みを与えて、ユーザーには好意的に受け入れられ、以来、遺跡発掘による超兵器によって同盟の勢力地図が書き換えられることになっていった。


 元々、飛礼同盟員だったねじまき姫率いる<魔法少女>同盟は、<ボトムドール>という魔法兵器を使う機体を発掘している。

 鬼虎同盟がいるのは<刀撃ロボパラ>西部地域だが、南部地域には<魔女>同盟という同盟員一万人を超える同盟が存在するという情報もある。

 さらに中央地域には未知の数百万もの同盟員を抱える巨大な同盟が存在するという噂もある。

 鬼虎同盟は西部から更に外側に向けて遠征部隊を派遣して、未知の遺跡探索をすると同時に、中央地域にも隠密偵察部隊を放ってその巨大同盟の内情を探ろうとしていた。


鹵獲ろかくしてみますか?」


 ナガモリが提言する。

 スナイパーはその遠距離攻撃力を考えても、数多く確保しておきたい所である。

 しかし、<スナイパーキラー>のような機体によって損耗の激しい、貴重なものになりつつもあった。

 ステルスレーザーなど有してる機体ならば尚更である。

 

「そうだな。その価値はありそうだが、通常部隊の余裕はない。を使ってみるか?」


 鬼虎は薄く笑った。


「それがいいでしょう。俺の機体は修理が必要なので少し休ませて頂きます」


 ナガモリはすまなそうに言った。


「いや、若手のにやらせるよ。出撃したがっていたからな」


 鬼虎の頭には捨石に最適な目たちがりやな若手同盟員の顔が浮かんでいるようだ。


「申し訳がないですが、よろしくお願いします」


 いつも自信満々なナガモリが殊勝な言葉を放っていた。

 不意打ちとはいえ、もし機体が全損すれば今までの経験値や武装を全て失ってしまうことになる。

 恨みを買わないために、敵が情けをかけてくれたこともナガモリにとっては屈辱でしかなかった。

 ナガモリの心は復讐の炎で静かに燃えていた。




    †




「あんたが護衛? 目立ち過ぎじゃないですか?」

 

 アキラは護衛だという男の機体を見上げて呆れていた。


「第六天魔王、信長自ら護衛してやるのだ。文句はなかろう?」


 重々しい声で男は言った。

 妙な迫力があるので、本当に織田信長に思えないこともないが、自分は織田信長だという言い張る芸風のプレーヤーらしい。

 しかし、乗ってる機体が最悪なのだ。

 ボトムストライカー<ゴールデンライオン>という金ぴかの獅子風甲冑の機体で目だってしょうがないのだ。

 これではステルスが売りのアキラのスナイパーアレイの位置を知らせるマーカーではないか。


「文句だらけですよ。文句しかない!」


 アキラは本音をぶちまける。


「怖れを知らぬ生意気な奴じゃのう。メガネに頼まれなければお前の護衛などする気はないが仕方ないな」


 何か堪えているようだが、さっさと切れて、どこかにいなくなって欲しいものだ。


「さて、少し仕事をするか」


 信長だと言い張るプレーヤーは不意に気配を変えた。

 おちゃらけていた時と全く違うオーラを放ち始めていた。

 アキラには時折、そんなプレーヤーのオーラが見えることがあった。

 スナイパーには必須の素質でもあった。


「きやがったか」


 アキラはしばらくして、地平線の先に大量の小型機体を見つけた。


「まるで小バエだな。ドローン部隊とかいう奴か」


 信長はその機体をすでに認識していた。


「また厄介な奴がきたな」


 一体一体は大したことないのだが、おそらく千機ぐらいはいると思われた。

 <ゴールデンライオン>は腰の聖刀に手をかけて、いきなり全速力で疾走しはじめた。

 死ぬ気なのかと思ったが、好都合なのでアキラは隠蔽装甲ステルスを展開して空間の中に溶け込んでいった。

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