2ー64★俺と言う存在
『あらー、お嬢様眠ってしまいましたね…』
『まー、疲れたんでしょ…』
三人での話し合いはエルメダがその場で意識を失ってしまったことにより途中終了となってしまった。
話し合いの途中から、エルメダの目が気がつくと半開きになっている。
一応本人の中でも、話し合いの途中で抜けるのは気が引けるようで、まだ大丈夫と言うアピールはしてくるのだが…
目を離すと頭が左右に振り子運動を繰り返す。
俺とアンテロはしきりに無理をしなくていいよとは何度も念を押したのだが、それでも本人は大丈夫と言いながら話し合いを終えようとはしない。
俺の方としても二人に話すべきことは話したつもりだ。
そこで、彼女の方から何か話す内容があるのかと聞いてみたのだが…
規則正しい振り子運動ばかりで、自分から話そうとしてこなかった。
恐らく、自分が原因で話し合いを区切りたくないと言うワガママなのだろうと思った俺は、彼女のそれに付き合おうと、彼女と一緒の振り子運動を繰り返していると…
いつの間にか彼女は眠ってしまった。
『このまま、この部屋で寝かせても宜しいのでしょうか?』
『んー、どうだろ…ノルドに聞いてくるね』
★★★
ノルドにエルメダが眠ってしまったことを伝えるとフェンとフィリアが布団の準備などをしてくれると言うことだったので、俺とアンテロは外に出て少し話をすることにした。
『あのー、ナカノ様お話と言うのは何でしょうか?』
『あー、えーっと先に言っておきたいことがあるんだけど…』
『はい…?』
彼女は目をクリっとさせながら小首を傾けている。
ちょっと、ドキッとしたが…
まー、それはそれと自分の中で平静を保ち俺は彼女に話を続けることにした。
『以前、トラボンさんに最初の条件って言われたことがあったよね?』
『はい、ありました。確か背の高いドワーフに会いなさいとか言われた件ですね』
『それが、あのノルドのことだよ!』
『まぁー、そうなんですか?と言うことは…あの方に私が詳細を話せば協力をしてくれると言うことなんですよね?』
『んーっと…そうだとは思うんだけど…、ただ今の状況だとね…』
『もちろん、私も全てのことを押し退けて、ノルド様に自分の用件を優先させようとは思いません』
『そうだよね。それなら全然いいんだけど…ただ…』
『ただ?』
『うん、何を聞くのかなと思って…』
『そうですね…確かトラボン様は力になってくれるとは言っていましたが、ノルド様が具体的に何を知っているとは言っていませんでした。なので私の身の上などを話した上で、あの方が知っていることを教えてもらってと言う形になると思います』
『そっかー、うん。そうだよね、そうなるとアンテロも次の行動を考えて行くってこと?』
『そうですね。ただ…、そうなると恐らくですが、ナカノ様やお嬢様とのお別れも近いと言うことになりますね』
(別れが近い?)
『ん?そうなのか?って…なんで?』
『前回の戦闘で貰った報酬と今回の依頼で頂いた前払金、後、フィリア様の件が片付いた場合は恐らく依頼の正式な報酬も貰えるはずです。それであれば、旅の資金としては暫くの間、何とかなるのではないかと思いますから。それに、詳しい内容はノルド様の話を聞いてからになるとは思いますが、多分次の私の目的地は
『んー、そうだな。その可能性もあるかもしれないけど…、でもその為には今回のフィリアの事を全力でこなしていかないとな』
『もちろんです!全力であの方のお力になろうと思います』
彼女は笑ってはいるが何となく雰囲気が寂しく感じる。
持てる力で精一杯の力をこなすのは、仕事においては当然のことなのだろうが、それが同時に周囲との別れを早めてしまうということに一種のジレンマのような感情を持っているのではないだろうか。
そして、その感情はもちろん俺も感じていた。
このままでいいのか?
と思ってはいたのだが、どうしようもできない現状にいつしか言葉を失っていた。
『あのー…ナカノ様…?今回の件とは全く関係ないのですが…一つ質問してもよろしいですか?』
『うん。いいよ』
『ナカノ様は何故、旅をしているのでしょうか?』
俺はアンテロからこの言葉を聞いた直後、自分の頭が一瞬で空っぽになってしまったような感覚に襲われてしまった。
俺は職業登録所などを始めに、色々なところで旅人と言われてきた。
それの理由というのも、どうやら冒険者という職業を持っていることが起因らしい。
だが、俺個人的には自分が旅をしているという自覚は一切ない。
元々は別の世界にいる人間である俺が、この世界にやって来た。
自分では決して思っていないことだが、誰かがこれを客観的に見て旅というのであれば、それは旅なのかもしれない。
とは言っても、この旅は俺が望んだ旅では絶対にないのだから、もし仮に旅をしている理由と問われたら…
それは、俺じゃない。
俺をこの世界に送った誰かに聞くべきことなのではないだろうか?
自分で戻る方法を探すとしても、今まで生活をして来て糸口らしいものもまるでないのだ。
もし仮にここで俺が、元の世界に戻る方法と言う答えを言った場合、それは旅をしている理由と言うよりは、旅をやめる理由となるはず。
もちろん、他の者に元の世界なんて言っても誰にも通じるわけがないので、俺は話す気にはなれない。
そんなことを考えながら俺は、アンテロが離れたことにも気付かないで、ひたすらに自問自答を繰り返していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます