2ー23★王女の回想⑨ブラッディメアリ
どれ程の時間が経過したかは分からない。
彼女は呆然としてしまい自分がトレーを持っていることを忘れて力を抜いてしまった。
食べるつもりであった食事が資料室の前の通路にぶちまけられた音で彼女は正気に戻る。
その間、彼女は二つのことを考えていた。
一つ目は自身に起こった異変のこと。
これまでのカードの失敗、体調不良、庭での出来事や髪のこと、今回の目の異常のこと。
自身には短期間の内に様々な変化が起きている。
もしかしたら更に予期せぬ変化というのがあるのかもしれない。
果たして自分に耐えることが出きるのだろうかという不安と恐怖。
二つ目もやはり自分に起きた様々な変化であることは変わりがない。
ただ、カードの件は別にして、呪詛、体調不良や白髪、血、目など…
これらに関する話というのを彼女は、どこかで聞いた気がしたのだ。
どこで聞いたのか、トレーを持ちながら必死に考えに耽っていた。
あまりに夢中になりすぎて自分の状況を忘れて、気づいたらトレーが自分の手から離れてしまったのだ。
思考の中から現実に引き戻された彼女が最初に考えたのは目の前の食事の処理である。
資料室周囲の人払いは自分の手で済ませたので自分の周りには当然だが誰もいない。
だからと言って掃除のために誰かを呼んでは
仕方がないので一人で床掃除をしようと決めた王女は周辺に何かがないかと探し出す。
すると通路の端、階段の手前辺りにホウキと塵取り、そして水の入ったバケツと雑巾などを見つけた。
彼女は水の入ったバケツの存在に疑問を感じたが、あまり深く考えずに通路の掃除を始める。
★★★
王女は掃除の間も自分の記憶に引っ掛かりというのを感じながら掃除をしていた。
そんな片手間で行われた掃除だが汚れたのは通路の一部ということもあり通路は元の綺麗な状態を取り戻していた。
だが掃除が終わったとは言ってもゴミなどが完全に無くなったわけではない。
彼女の使用した塵取りの中にはゴミが入っていて、バケツの水は汚れている。
別にこのままでもいいかとも思ったが…
時間がたちゴミから変な臭いがしたりというのは避けるべきと彼女は考えたのだろう。
とりあえずどこかに処理を出来る場所はないかと周辺を探し出す。
その時、階段の影の方から白と黒のスカートらしき物体が目に入た。
「誰?」
見間違いなどではないと感じた王女はとっさに叫んでしまった。
すると階段の影の方から彼女専属の侍女が姿を表す。
「フィリア様…あのっ…すい…」
侍女は王女に話をしようと思い顔を向けるが言葉がでなかった…
と言うのも、その王女の顔があまりにも異常なものだったからだ。
先ず王女は持っていたホウキを勢いよく手放し…
いや、明らかに自分に投げつけてきた…
腰を抜かしたように座り込んかと思うと、顔は目を大きく見開き、大粒の涙を溢している。
座り込んだ全身は頭の先から足の先まで小刻みに痙攣をしながら、自分の方を指差していた。
王女は明らかに恐怖を感じている表情を見せている。
まるで自分のことを凶悪なモンスターとでも言うのだろうか。
★★★
王女は侍女を見た瞬間に全てを思い出してしまった。
自分が小さい頃、侍女の言うことを聞かないで悪戯ばかりしていた頃。
侍女は自分を捕まえ「悪いことばかりしているとこうなりますよ!」と言いながら、ある話をしてくれたことがある。
その話と言うのが確か…
粗筋は…
昔、どこかの国に外見は非常に綺麗だが性格は自分勝手な
多くの者から求婚され、その度に無理難題を突きつけて周囲を困らせ楽しんでいたとか。
やがて難のある性格から周囲の反感を買うようになり、姫は呪詛をかけられてしまう。
原因が分からずに月日が経過していき、次第に姫の髪は白く老婆のようになる。
以前とは全く違う容姿になった姫は自分に自信を持てなくなり次第に周囲に対しての嫉妬の炎を高めていく。
姫は昼は病人で寝込んでいるが、いつのまにか夜は目を蘭々とさせ血を求め
最後には人間に戻れなくなった姫が勇者に討伐されるという言い伝えのはずだ。
あれは単なる言い伝えのはず。
自分には関係がないと思っていた…
だが言い伝えと彼女の今の症状で重なるところが多くある…
その数は偶然という言葉では片付けられないほど多い。
何故?
人を困らせたことなんて…
侍女に言われたときくらいのはず…
自分はみんなの幸せを願ってきた。
これからも願っていくつもりでいた…
素敵な人の元へ嫁ぎ、幸せな人生を送れると思っていた。
呪詛も体調不良も髪の毛も目も
そう言えば物語の中で、彼女がいつも飲んでいた飲み物…
確か…
特別な銀の杯に注がれた、赤く甘い果実酒…
ヨハンが呪詛を解く儀式だと言って渡してくれたのが…
聖杯という銀色の杯に赤く甘い果実酒…
私は騙されていたのか…?
考えれば考えるほど全ての事が繋がってしまう…
何度も頭の中で、そんなことはないと考えを拭ってみるのだが…
もしかして自分は間違った知識を調べていたのか…
調べなくてはいけないのは呪詛の事ではなく
そう思った瞬間…
ふとカードを失敗したことが頭の中を過ってしまった…
「イヤァァァァアアアアアアア~!」
恐怖で頭の中が一杯になった彼女は、混乱のあまり侍女に物を投げつけていた。
周囲にある手頃なものを片っ端から…
何度も泣き叫びながら…
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