2ー17★王女の回想③それぞれの願い

バビロンに生息するモンスターの中でキマイラは最悪の魔物と言われている。

一対一どころか何十人で戦っても先ず敵わない。

昔は地上にいたらしく、その時の報告と言うのを聞く限り、どれもが耳を疑いたくなるようなものばかりだった。

だが、いかなる手段を用いても今回は討伐をしなければいけない。

可愛い自分の娘を救わなければいけない。

無理を承知の上で王は討伐隊の結成に全力を注いだ。


そして王の名の下に総勢で100名を越える戦士が集められることになる。

集められたものは平民や貴族などの身分を越えた者共。


ある者は己や主人の名声のために。

ある者は財宝と言っても差し支えのない成功報酬のために。

ある者は度重なる要請に断りきれなくなったために。

全ての者が様々な理由を抱えていた…


いずれの者も実力はバビロン屈指の呼び声が高い者ばかり。

見た者の話によると顔ぶれは、まるで最終戦争にでも望むのかと勘違いするほどだったという。

王はそれほどまでに国の実力者を残らず集めていた。



かくして結成させられた・・・・・・・討伐隊だけに王は非常に期待していた。

国中の猛者をかき集めただけに吉報を必ず持ち帰ってくれるはず。

そう思いながら、送り出した後はくる日もくる日も一人で・・・吉報を待っていたと言う。



[自分が原因だと涙に更ける王女の気持ちになど気づく様子もなく…]



★★★



ある日、国王の下に一人の男が訪ねてきた。

崩れないのが不思議と思えるほどにヒビが入った鎧。

左手には下半分しかない盾。

左の腰には鞘のみしか見られず、太刀打ちの部分が途中までしかない槍であったであろう金属の棒を背中に背負っている。

顔や手足はホコリや砂、汗や血などにまみれ自己紹介がなければ誰の目にも分からない有り様だった。

聞こえる声は力ないものであったが…

彼の名はグリエルモ・ティフォンと言いキマイラ討伐隊のメンバーの一人である。


それが分かるや否や王は人目を憚らず狂喜乱舞のごとく歓喜をしたと言う。


何故男は一人なのか

何故男はボロボロの格好をしているか

道中何があったのか

色々と聞かなければいけないことは山のようにあるはずなのだが…

王は唯ひたすらに王女の呪詛を取り除く方法を聞き続けていた。


やがて王の質問攻めが終わると男は懐から一つの不思議な杯を取り出して見せる。

一見するとなんの変哲もない銀製の杯のように見えた。

だがよく見ると内側に術式ではない文字とも絵柄とも言えないものが掘りこまれている。

王も今まで珍しいものを見たことは数えきれないほどあったが、男が見せた杯は始めてみるものだった。


なので見せられても何を意味するのかわからなかったが、横にいたヨハンが待ってましたと言わんばかりに反応を見せる。

どこで得たのか分からない知識を矢継ぎ早のごとく王と男に話続けた。

彼の話では男が持ってきたものは神器アークの一つとして伝わる聖杯だと言う。


神器アークとはその昔、とある理由から神が自らの力を封じ込めたアイテムだとされている。

だが、あまりにも昔のこと過ぎて現在では言い伝えの類いで僅かに伝わる程度で詳細などはあまり知られていない。


王はヨハンが説明することを正直理解していなかった。

膨大な量の知らない情報が降ってわいたように現れたと言うのもあるのだが…

王の興味は王女の容態でしかなかったのだから…

結果しか興味がなくなっていた…


だが、彼が言うには目の前にある聖杯を使うと王女の呪詛は解かれると言う。

それを聞いた王は男から聖杯を受けとると、即座にヨハンに手渡し監理を命じる・・・・・・

この国の正式な役人ではない彼に…


王の命令を聞いたヨハンは、男から聖杯を受けとると、それを持って王女のもとへ駆けつけた。


ヨハンの突然の訪問。

最初は何事かと不思議に思った王女だったが、ヨハンの話を聞くと嬉しさのあまりにとたんに泣き崩れる。

苦しくて待ちわびた日がとうとう来たからだ。

王女の涙を目にしながら、ヨハンは王に説明をした通りに見事、呪詛を解いて見せた。


見事呪詛の解呪に成功した王女は、次第に元の元気で美しい姿を取り戻していくことになる。

王女は元気になると以前のように積極的に国民の前に出るようになった。

その王女の姿を見て国民は以前の様子を取り戻していく。


これによりヨハンも最初の要求を成功させることができると非常に喜んだ。

王も王女の本当の幸せがこれから訪れると非常に喜んでいた。


王女は体調を完全に取り戻すとヨハンの主との縁談を前向きに進めようと決意する。

自分はヨハンの主にはあったことはない。

この世界の貴族や王族の結婚は、政略的なものを多分に含むことがある。

もちろん、その事を彼女も幼少から自覚していた。

そして、は自分の幸せも同じくらい大切に考えてくれるのを彼女は知っている。

そのが選んでくれた相手。

先代の当主を通して付き合いのあったを始め様々な者が素晴らしい方だと言っていた。

それに自分の呪詛を解呪してくれたヨハンの主であれば、きっと素晴らしい人物に違いない。


そう思いながら王女はまだ見ぬ相手への恋慕を高めていく。


ヨハンの方も王女の考えに非常に満足したようで、自らの主へ報告するために城を後にした。

次に来る時には自らの主も一緒にと言う言葉を残して…

聖杯を持ったまま…


だが…


それからほどなくして…

王女は自分の異変に気づくことになる。


そして今度の異常は前とは比較にならないほど残酷なものであった…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る