水族館、外周側と内周側の差異

中田祐三

外周視点

       外周側の視点




 世界の上から注ぐ光は今日も僕達の上に等しく輝いていた。


 ユラユラと揺らぐ草たちの隙間からは僕らよりも少しだけ小さい者たちが隠れるように固まっていて、その上では自分たちよりもやや大きい者たちがゆったりと漂っている。


 死んでるようにも見えるけれど、お祖父さんに言わせればあれはああいう生き物なんだと言う。


 草たちの陰で眠っているように動かない者たちもお祖父さんに言わせればそういうモノらしい。


 聞けば、こことは違う世界では僕達よりも遥かに大きい生物が存在して、遥か昔には一緒に住んでいた時代もあったそうだよと語ってくれた。


 それじゃ世界が一杯になってしまうじゃないかとビックリしながら言うと祖父はプカプカと泡を吐いて大笑いしながら、その頃は世界は途方も無いくらいに広くて、一生を費やそうとも果てまでたどり着くことはなかったそうだ。


 それは祖父の祖父のそのまた祖父の代という気が遠くなるほどの昔で、その時分には僕達の仲間はもっと大勢存在して、同時に大勢が食われたり、死んでしまっていた時代もあったと。


 食われるということを想像した幼い弟達が一斉に『怖い!』と叫ぶと祖父は細かく水泡を零しながら『大丈夫、大丈夫』とヒレを動かして彼らを優しくなだめてくれた。


「そんなことは昔の話だよ、ごらん?ここにはそんな恐ろしいものは居ない…ここは天国なのだから」


 その言葉に皆が安堵する。 僕も怖がりながらもそれを口に出すのを耐えていたので同じように安心した。


 そして周囲を見渡す。


 この世界には僕達の他に居ない。


 もしも…。 もしもこの世界の他にも世界があって、ここでは見たこともない生物が居るのなら、そのために世界の果てを見てみたいという気持ちもある。 


 そう考えて、一度だけでなく、何度となく『果て』を目指して歩んだこともあるけれど、この世界には果てなんかなかった。


 決して短くはない時間を突き進もうともたどり着く先はまた同じ場所に到着する。


 この世界は泡のように丸い形をしていて、僕達はその外周側に生きている。

 


 そしてその外周側に居るのは僕達よりも小さい者や同じくらいの者、僕達を食べようとする者はどこにも居ないのだ。


 食べ物は欠かすことなく天上から降り注ぐ。 当たり前のように。 僕達は飢えることがない。 


 だからここは天国なのだ。 何も変わることなく安心と安寧に満ちた場所。


 そして僕達は抜けたコケや草のように漫然とこの世界で生きている。 


 …。 ……。 ただ一つだけ。 一つだけ。 考える必要もないくらいに安全な世界で不思議なことがある。


 それは円の外周部。 その内側にぽっかりと空いた世界で生きている者達が居る。


 光りが天上に存在している時にだけやってきて僕達を覗き込んでは去っていく。


 数は…わからない。


 一度に来る数は決して多くはない。


 なのに光りが消え、また点いて、また消え、そしてまた点く度にやってくる個体の瞳の上部は主に黒が多いが、中にはキラキラとした色も居たりとそれぞれ違う。


 なのだから、もしかしたら途方もないくらいに数が多い群れなかもしれない。 


 ただヒレの数と着いている場所も同じなのそういう種類だろう。


 お祖父さんに聞いてもわからないという。 


 透明な壁に隔たれた向こう側で彼らは様々な反応で僕達を見ている。


 一体何が楽しいのだろう? 一体なにを考えているのだろう? 


 ボンヤリと歪む向こう側の世界の者たちと目が合う。

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