「White Out」

目の前には白い闇…

奥行きのない張り付くような闇が広がる

目の前には厚みのない 

しかも刺すように痛くまぶしい闇が広がる

真っ白だ

ただただ真っ白だ

光が脳に突き刺さる

五感がまったく働かない

働いていない

何の音も聴こえない

ここはとても静かだ 

完全な静寂…

何の感覚もない

時間の感覚も

視覚も 触覚も 痛覚も

ここには何もない…恐怖

ほんの少し思考が鈍く回転するだけ

ここに居る理由はわかっているが

なぜこうなったかはわからない

と、

単色に見えた闇が次第に形を変える

明暗がついて蠢き始めた

先の尖った紙のように薄い角が何層にも重なり

蛇のように蛇行して視える

視えた途端に意識が物凄い勢いで振り回され始めた

内側から外側へ 外側から内側へ

グルグルと グルグルと

休む間もなく働く遠心力

その渦の中へ引きずり込まれた

上から下へ 下から上へ

このままずっと

永遠に続く上昇と落下

無限に続くフリーフォール

平衡感覚がおかしい

どこが上で どこが下なのかわからない

宙に浮いているのか 地に足をつけているのかわからない

吐きそうになる

終わりの見えない苦痛に苛まれる

悲鳴すらあげられない

叫ぶこともできない

助けを求めることもできない

身体が動かない

身体が…ない

何かにすがりつくことすらできない

意識が…バラバラになる

気が…狂う……


気がつくと 白い天井が見えた

目を閉じると

規則正しいリズムを刻む心電図の電子音が聞こえ

血圧計のバンドが上腕部を圧迫していた

もう一度 目を開けると

右手に点滴のチューブ

ピンクのカーテンとモニターがぼんやりと見えた

ブルーの毛布をかけられ

私は……「そこ」にいた

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