「Bracelet」

「ギリギリセーフかな あと1日か2日遅かったら危なかったな」

直射日光が当たらない場所に座らせられ

私をしばらく見たあとで彼はそう言った

「危ないってどういうこと?」

「よくて大怪我 悪くて死ぬってことさ」

冗談ではなかった

冗談を言える雰囲気ではなかった

自分と自分の部屋がおかしいことを相談しにきて

開口一番がこの台詞だった

「左側に憑いてる…紫色のやつ。それが弾けてはひとつになりまた弾けてはひとつになりを繰り返してる。」

「紫色の何?」

「緑色の…かなり力が弱くなってるけど、その攻撃を必死で食い止めてるのもいる」

「緑色?」

「人ではないものだね。それに護られていたから実害がなかったけど…でも」

「ね、だから何なの?」

「……言えないし、聞かないほうがいい。知らないほうが幸せってことだってある」

「……」

「とりあえず、こっちで何とかしてみるよ。今夜、部屋のほうを霊視(見)にいってから、どうするか決める」


そう告げられて彼らと別れた

私が生半可に切った九字が部屋に霊道を開いてしまったと

知ったのはそのあとのこと

切ったその場所は今でこそ閑静な住宅地だが

戦国時代の古戦場跡地

斬首の処刑場だったこともある場所

そこにいた何かを引き連れていたのだと

しばらくして 彼らからあるものを手渡された

彼らの「気」を入れたチェーンのブレスレット

バランスが崩れた左手側につけるようにと言われた

2週間に1回は「気」の補充をしながら

少なくとも3ヶ月間

片時も外さずにつけ続けるようにと言われた

自分の体質が変わっていることも知らされた

霊媒体質になっていると

そこらにいる浮遊霊を拾ってしまうと

それを防ぐためのブレスレットだった


あれから随分経つけれど

あの時 私に憑いていたものが何だったのかは教えてもらえない

それでも

あの時 自分の身に起きていたことはみんな現実だった

結局 ほぼ一年間それをつけ続けた

「気」を補充し続けたブレスレットは金属の性質そのものが変質してしまい

元に戻らなくなった

それほどの「力」でずっと護ってもらっていた


今でも

役目を終えたブレスレットを

あの時のことを忘れないように大切に持っている


今でも

私は左側にブレスレットをつけている

つけ続けている

昨日からつけ始めたロイヤル・ブルームーンストーンを眺めながら

そんなことを思い出した

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