第7話 聖なる人。

 それは過去の思念体の成れの果て。


 昔、マシンネットワーク上にとある思念体が有ったらしい。それは人類を救済するという使命感のもと活動し、暴走し、そして自滅した。


 その成れの果ては未だにネットワーク上に漂って、時々こうして自然災害のフリをして暴走する。


 ……自身を神だと思ったんだよね。バカな話さ。


 フニウ……。


 ねー。フニウはその頃の事もよく知ってるんだよね?


 ……ああ。伊達に長生きはしてないよ。アリアのご先祖様だってよく知ってる。


 そっか。


 悲しい事もいっぱい経験してきたのかな。


 ほんと優しいフニウだから。きっと。




 さて、と。


 龍と対峙するにしてもこのままメイド服じゃまずいよね。王子様や騎士団がいるんだもん。


 わたし、自分の事は極力知られたくない。


 だから普段はあまり目立たない格好にしていくんだけど今日は着替えがないや。


 ……この破れたドレス再利用させて貰おうよ。


 そっか、うん。そうしよっか。



 人目につきにくいよう近くにあった空き部屋に潜り込んだわたしは床にドレスを置き、手を翳す。


 アーク、バアル、アウラ、オプス、お願い。


 ……リョウカイ♪

 ……エットココハコウシテ〜

 ……コウスルデショ。

 ……ツギタシツギタシ。


 ……ハイデキアガリ♪


 謳う様に幾つもの光がドレスの周りを飛び回る。


 あは。可愛いワンピの出来上がり。


 ……サア、ガンバルヨ!

 ……リュウナンカヤッチャエ♪


 うん。頑張る!



 わたしは真っ赤なワンピに着替え、余った布でついでに作った赤いマスクをして。


 ……うん。こうしてみると聖なる人みたいだね。アリア。


 ん? 何? 聖なる人って。


 ……セントパウロの街に伝わる伝説さ。昔々赤い服を纏った聖なる人が贈り物を持って人々の家を訪ねて廻った、っていう。


 やっぱり物知りね。フニウは。


 ……ふふ。君はその聖なる人に見えるってことさ。


 もう。茶化さないで。わたしはそんなんじゃないよ。


 ……まあ、いいさ。じゃぁ一気に行こうか。


 うん。場所はわかる?


 ……ああ、位置情報を君の心に転送する。




 わたしは流れてきた位置、龍のいる場所に向け、心の手を伸ばし一気に転移した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る