第34話 おっぱいがいっぱい

 小さなおっぱい。

 おおきなおっぱい。

 綺麗なおっぱい。

 平らなおっぱい。

 大きさや柔らかさ、弾力にハリと、おっぱいと言っても千差万別で、様々なおっぱいがある。

 その中でも、今触れているこれは特に感触が優しい。

 触れているだけで幸せな気分になり、いつまでも触り続けていたくなるような心地良さだ。


――さん。……ジさん。


 おっぱいが俺に話しかけてくる。

 これはもっと触って欲しいと言う事だろうか。

 女性のおっぱいとは、どうしてこれ程までに素晴らしいのだろう。

 おっぱいをムニムニと触る度に、右手が蕩けてしまうようだ。


「……さん! リュージさんってば!」


 大きな声が耳元で響き、見慣れた顔――アーニャの顔が俺の視界を埋めている。


「あ、アーニャ。おはよう」

「お、おはようではないですっ! セ、セシルさんがすぐ傍に居ますからっ!」

「な、何? どうしたの?」

「ですから、夜伽は二人っきりの時になさいませんか? 私はお世話になっている身なので、求められれば断る理由はありませんが、セシルさんに悪影響が……」


 夜伽って、朝からアーニャは何を言っているのだろう。

 何か混乱しているの?

 確か、混乱を治すキュア・コンヒューズっていう薬があったはずだけど。

 本気で調剤室へ薬を取りに行こうかと身体を起こした所で、ようやく気付く。

 さっきからずっと俺の右手が、アーニャの胸の上にある。

 そして、あの何かを揉むようなリアルな感触の夢……ベッドから飛び起き、朝からダイビング土下座する事になってしまった。


……


「しかし、あんな夢をみてしまうとは……」

「まぁ何十人、何百人という女性のを見たわけですし、仕方ないんじゃないですかね」


 おっぱいがいっぱいな飛んでも無い夢を見てしまった事を説明し、アーニャが水に流してくれたのだけど、


「お兄さん、おはよ。どんな夢を見たの?」

「セ、セシル? えっと、俺がお医者さんとして頑張る夢だよ」

「そうなんだ。じゃあ、もっと頑張ろうね」


 起きてきたセシルが純粋に頑張ろうと励ましてきた。

 こ、これは……心に刺さる。

 本当はエッチな夢を見てしまい、しかもアーニャの胸を触ってしまっていただなんて、絶対に言っちゃダメな奴だ。


「おはようございまーす!」


 丁度話題を変えたいと思っていた所へ、聞いた事のある大きな声が響く。

 声のした方を見てみると、クリニックの入口からララさんが入って来ていた。

 ……昨日、疲れ過ぎて鍵を閉めずに寝ちゃったのか。

 防犯意識をしっかり持たないと……って、それより随分朝早くから、ララさんは何の用だろう。


「昨日はありがとうございましたー! 夕方くらいからは、町の中を人が歩くようになって……本当に助かりました。ありがとうございます」

「それは良かった。えっと、薬代の支払いですか?」

「それもあるんだけど、それよりついて来て欲しい場所があるんです」

「分かりました……が、少しお待ちいただけますか?」


 ララさんにリビングを勧めたのだけれど、クリニックの待合室で良いと言うので、一先ずそれぞれ朝食とシャワーを済ませる。

 昨日は物凄く疲れたのに、疲れ過ぎて皆そのまま寝ちゃったからね。

 着替えなども済ませ、改めて待合室へ行き、そのまま外へ。


「うわー。あの建物が一瞬で消えちゃうんですねー」

「えぇ。でも、昨日も言いましたが、他言無用でお願いしますね」

「大丈夫ですって。それより、こちらですー」


 ララさんについて十分程歩くと、一件の小さな家に着いた。


「エミリアさーん! おはようございます。昨日お話しした先生を連れてきましたよー」


 玄関から大きな声を出すと、ララさんがそのまま家の中へと入って行く。

 セシルやアーニャと一瞬顔を見合わせるものの、仕方なく俺たちも家の中へ。

 ララさんについて行った先は寝室で、顔色の悪い女性が寝込んで居た。


「だ、大丈夫なんですか?」

「いえ、大丈夫じゃないです。私が把握している中で、おそらくエミリアさんが一番症状が重くて、歩く事も出来ないんです。先生――じゃなくて、リュージさん。どうかエミリアさんを治してくれませんか」


 エミリアさんと呼ばれた女性は顔色が悪く、息も荒い。

 どうやらかなり苦しい様子なので、すぐさま胸に触れる。


「失礼します」


『診察Lv2

 状態:蛙毒(強)、麻痺毒、衰弱』


 大勢の人を診察したけれど、蛙毒の強という状態は初めてみた。

 しかも衰弱とも記載されているし。

 すぐさま倉魔法を使い、取り出したBランクのパナケア・ポーションを少しずつ飲ませて再び診察。


『診察Lv2

 状態:衰弱』


 一先ず毒は治ったものの、パナケア・ポーションで衰弱は治らないらしい。

 衰弱という事は、身体が弱っているので、状態異常とはまた違うみたいだ。

 一先ず、弱って行くのは防ぐ事が出来たので、後は栄養のある物を食べ、身体をゆっくりと回復させて……って、これだ。


「すみません。もう一本だけ、ポーションを飲んでみてください。これで、きっと良くなるはずですから」


 昨日、風邪を引いている人に出した、滋養強壮効果のあるナリッシュメント・ポーションを飲んでもらうと、


「……あ、あら? 私は……?」

「エミリアさんっ! 良かった!」


 静かに女性が身体を起こし、すぐさまララさんが抱きついた。

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