プレゼントボックスの裏側で・Ⅳ(記録終了)

 移動を終えたトリニティのMGマシンギガイアスが、虹色の光を足裏に履きながら海面に着水する。噴き上がる水飛沫。大質量を受け入れたことで起こる高波。その全てが、空間に君臨する威容を際立たせている。


 トリニティの攻撃行動の開始からきっちり一分後。三人の見ている戦域図に、ほぼ同時に、敵対勢力の機体がどのような分布で展開しているかの赤い光点や、友軍の動向を示す青い光点が表示された。

 敵は横一列に固まっているようで、表示されている点は一列に並んでいる。

一方の友軍は、敵機の攻撃を避けるためか散開しているようで、光点がバラバラに行動していた。

「姉様。配置に着いたよ。ここからなら肩のレールキャノンで狙撃できるはずさ。姿勢制御はボクがやるから」

「姉様。こちらの自立起動兵器の展開も終了しています。敵は、今表示されている範囲から出られないように誘導しています」

 それぞれの報告に、アテナイが頷く。

 今の彼女の視界には、戦域図と共に射撃用のインターフェースも表示されていた。

 射撃の照準予測と、その予測で射撃した時に弾体がどのような弾道で飛翔するか、どのくらいの確率で命中するか、どの程度の損害を与えられるか。そう言った補助情報が全て電子情報として一括表示されている。

「狙いは良し。障害も無し。敵情も理想的。後は予測と自分の勘に従って撃つだけね」

 自分の目線を追うように表示された複数の円が二重三重に重なり、疑似的な円柱状のレーンを形成していく。その横にパーセント表示と文字列で、何らかの確率や注意書きが載せられている。

「姉様。肩部レールキャノン、充填を再開。現九十パーセント。発射可能まで残り十秒」

「脚部の推進装置、衝撃緩和のための配置に変更。いつでも行けるよ」

 その声の直後に、アテナイの見ている視界の右上に見えている、レールキャノンの砲身の一部が回転を始め、同時に余剰エネルギーの放出に伴う放電現象と、排熱による陽炎と蒸気の流出現象が起こり始める。

「エネルギー充填完了です。弾体の励起状態も最適の範囲に収まっています」

「砲身の状態、機体各所の挙動にも問題なしだよ」

「分かったわ」

 報告と同時に、円柱状レールのパーセント表示が全て百パーセントを示した後で、注意書きの文字列と共に消失する。

「最終照準良し。微調整良し。レールキャノン、発射!」

 アテナイの手により、トリガーが引かれる。

 次の瞬間、金属板を思い切り叩いた時のような音が響き渡ると共に、砲身の先端や回転部から蒼い燐光と電流の輪が迸る。その後、音や燐光が消えていくと共に、電流の輪も散っていった。


 発射されたレールキャノンの弾体は、青い光の筋を曳航しながら、目標に向けて飛翔していく。それが通過して切り裂かれた空間が、帯電現象を起こして薄く輝いている。

 しかし、その美しさも束の間。

 直後には盛大な水柱と衝撃波が発生。その少し後には、困惑に満たされた無線通信のノイズと、混乱した声や怒号とが飛び交い、先の美しさを消し飛ばすほどの混沌とした状態が生み出された。


 機体や砲身から放出される蒸気が周囲に散り、弾体を収めていたパッケージの空箱が海面に落ちて飛沫を上げる。熱を帯びていたのか、落下した海面からは僅かに湯気が立っていた。

 そこから、間髪入れずに弾体の替えがスライドするように装填され、内部の空白が埋め合わされていく。

「お見事です、姉様。弾体は最初の一機を貫通。その近辺に居たもう一機を着弾の衝撃に巻き込み、中破させました」

「テロリストたちの足並みは完全に乱れたね。現場は大混乱。奇襲と衝撃波の合わせ技は、物凄く効果的だったわけだ」

「それは良かった。もう一撃、行くわ。準備を宜しくね」

 二人の報告と、戦域図に表示されている着弾地点の被害状況とを見やり、アテナイは会心の笑みを浮かべて次の射撃に入った。

「はい、姉様。自立起動兵器の展開は、継続しています」

「容赦ないね。でも、それが良い。それでこそ姉様だ。ああ、姿勢制御はもう行っているから、いつでも大丈夫」

 二人もそれに続いて準備を行う。

「二射目、構え……!」

 レールキャノンの砲身が、再び余剰エネルギーと熱気の放出を始める。


 その間も、陸上では聖夜の祭が盛り上がり、佳境に入っていた。注目されていたMFやライダー、ML部隊の活躍を人々が熱弁し、熱気をモニターの向こう側に届けている。きっと見ている者達も、それ以上に盛り上がっていることだろう。

 一方で、同じ激しさを、冷たい一撃として放つことで成し遂げられるエイジス・トリニティの任務も、佳境に入ろうとしている。

 社会にとって不埒な正義を抱く侵入者に、裁きの雷鎚が下されるまで、あと十数秒。

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