戦闘記録:エイジス・トリニティの護衛記録

プレゼントボックスの裏側で・Ⅰ

 ある洋上を、四隻の艦艇からなる艦隊が航行している。いずれも流線形を基本とした防御力に優れる造形をしており、共通のエンブレムを付けている。そして、その近未来的な雰囲気を、威容として周囲に放っていた。


 その中でも、艦隊の中央に位置している大型艦艇の艦橋内では、複数人によって、忙しなく情報と言葉とが往来していた。

「聖夜企画の会場の動きはどうか?」

 艦橋内で、他よりも一段高い位置にある席に座っている男性が、電子戦域図を開いている担当者に向けて、声を発する。すると、一人の女性がインカムを付けたまま振り向き、無表情で男性を見上げた。

「報告。現状、特に問題も無く進行中。メディアの映像放送も滞りなく行われております。標的として設定した管理機関のGLギガントレイバーも、順調に稼働中」

 報告する担当者が、会場周辺で巡廻している警備担当者の取得している映像を、男性の座席前にあるモニターに公開する。

 そこには、流線形を基調として、横に腕の生えた戦艦のような形状をした胴体に、その巨体を支えられる腰部と四本の太い脚を備えた、全長四百メートル弱ほどの機械が映っている。

今しも、砲塔や脚部の防衛兵器の挙動を始め、護衛として配備されている無人機たちとの連携を確認していた。


 それは、GLまたはギガントレイバーと呼ばれる超大型兵器で、見上げる様な巨体に、大火力と超重装甲を合わせた、ロボット兵器製造者のロマンが詰まったような兵器だったが、日常的な戦闘行為では見ることの出来ない代物でもあった。

 その理由は、一企業でこれを製造・保有することで戦力のバランスが崩れるという観点で、国際戦争法及び協定で禁止しているからだった。

 ただ、そもそも維持するだけで膨大な費用が要求される、これら兵器を製造・保有できる企業が一部に限られるという一点だけで、禁止法は、有って無きが如しの法律と揶揄されてもいたが。


 なお、GLの他に、MGマシンギガイアスと言う大型兵器も存在する。両者の関係はMLメタルレイバーMFモビルフレームの関係性に似ており、MGは、GLよりも多少小型である反面、製造費用はGLの倍、性能に至ってはそれ以上ともいわれる、超が付くほどの高級兵器である。


 その様子を見て、男性が二度頷き、微笑む。

「分かった。引き続き会場の動きの観察と、GLの動向の監視を頼む」

「了解しました、艦長」

「参加者の様子はどうか?」

 最初の報告を受けて、艦長と呼ばれた男性は次の指示を出しつつ、別の担当官の女性へと顔を向けた。

「報告します。企業所属や契約中のフレームライダーたちを始め、企業のML達も続々集結しつつあります。全員終結まで、速度を考えれば約十分ほどです」

 先程、GLの巨体を映していたものと同じように、会場周辺を巡回している警備担当の操るMFや、特務用にあてがわれたMLたちから送られてくる映像を、艦長の男性が見ているモニターに公開した。

「ほう?」

 企画に参加している企業から派遣されたML部隊や、企業と専属契約を交わしているMF達が、事前に通達された位置に行儀よく待機している様子が映っている。

「良い数だ。これならポイント争奪戦も、派手に盛り上がるだろう。引き続き、警備担当者と連携して監視を頼む」

「はい、了解しました」

「そう言えば、我が艦隊の周辺状況はどうか。テロ予告の報告もあったが……」

 艦長の男性がそう問いを発すると、三人目の担当者が手を止めないままに振り向いた。

「あー、はい。そっちは大丈夫でーす。護衛についているMGのルーラー、エイジス・トリニティからは報告も上がってませんからー。引き続き監視と、障害物の除去を行わせていますが、索敵範囲、広げます?」

 他の二人とは違い、何処か軽い調子で答えた担当者がお伺いを立てる。

 艦長の男性は数秒ほど考えると、二回頷いた。

「いや、今のままで行こう。君も目を光らせておいてくれ」

「りょーかいでーす」

「さて。祭の始まりか。阿鼻叫喚の始まりか。どっちに傾くのやら」

 あらかたの確認と指示を終えた男性は、深く座席に体を預けるのだった。

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