記録:ラマシールとペルディ

短編:終わった話

 その日、依頼を遂行した私達は、遭遇した敵勢力に紛れ込んでいたMFモビルフレームとの戦闘が原因で、手酷い傷を負うことになった。そのMFを駆っていたフレームライダーは、こちらの予想を上回る強敵で、撃退こそできたものの、決着は、ほぼ相打ちと言うべき状態だった。


 その後、何とか拠点に帰還することには成功したが、整備を担当してくれている職員たちは、私達の機体の状態を見るなり血相を変えて走り寄ってきた。

「ペルディ……!」

 破損したコクピットの中で、私は叫んでいた。

 壊れて放電しているモニターや、接続機器の損壊で負傷した自分の体の危険性にも構わず、身を乗り出して、相棒たるペルディの座る前部席へと移動する。

 血の飛び散っている足場を踏み、回り込むように体を滑り込ませた。

「う……。ラマ、シール。ごめんなさい。私……」

 前部席に座っているペルディは、戦闘の際の被弾が原因で破片を浴び、体のあちこちから出血している状態だった。どう見積もっても、一刻の猶予も無い傷だと分かった。

「喋らないで! 怪我が酷いんだから!」

「いい。もう、良いの。もう私……」

 彼女が何かを喋ろうとするたびに、その口から微かに血が飛ぶ。

「それに……怪我してるのはお互い様、じゃないの」

「く……」

 そのような状態にありながらも、いつものように微笑み、私の頭に手を伸ばそうとした彼女に、私は涙を流すだけで、何も言えなかった。

「大丈夫……。きっとまた、二人で……大地……を……」

 声が少しずつ途切れて、弱くなっていく。彼女が、どんどん自分から遠ざかっていく。

 私は、その距離を少しでも縮めようと、伸ばされた手を握る。

 そして、彼女は私を撫でることなく力を失って倒れ、私もまた、沈黙した彼女の体に覆いかぶさるように倒れて、闇の中へと落ちていくのだった。


 それからどれほど経ったのか。

「……あ、あれ?」

 私は、真っ白な部屋で目を覚ました。

 余りに突然の変わりように、そこが病室だと気が付くまで数分はかかったように思う。

「ああ、そっか。私、戦いで……」

 場所を把握し、自分の体に繋がった輸液チューブや、心電図用の電極を見ながら、気を失った後に、自分の体に何が起こったかを理解した。

「そう言えば、ペルディは……?」

 状態を把握できると、次は当然、自分に身近な存在を目で探し始める。だが、その病室には誰の気配も無かった。ただ自分の心電図が発する「ピッピッ」と言う音だけが、私の耳に現実感を届けている。

 すると、病室の扉が開く静かな音が聞こえ、誰かが入ってくる気配がした。

 そして、その気配は自分の横になっているベッドに近付いてくる。程なくして、カーテンが開いた。

「はーい。体を動かしますから……って」

「あ、どうも……」

 開けられたカーテンの向こう側に現れた、女性看護師と目が合った。その瞬間。

「あ、すみません! ちょっと待っていてくださいね!」

 女性看護師は、急いで病室を後にすると、直ぐに複数人の看護師と、一人の医師を連れて戻ってきた。

 そこからは、体の調子を確かめる問診が始まった。

 それで初めて知ったが、どうやら私は、あの戦闘から一週間近く寝たままだったらしい。なるほど、看護師に驚かれたのも納得だった。

「先生」

 ある程度の問診が終わり、今後のリハビリストレッチや復帰までの予定の相談へ話が移った段階で、私はもっとも確認したい現実について、尋ねることにした。

「はい、何でしょう」

「こちらから質問しても、良いですか?」

「ええ、勿論。答えられる事であれば、答えますよ」

 医師がにこやかに応じたので、私は質問を続けることが出来ると察した。

「ペルディは……。彼女は、どうなったんですか?」

「……」

 私が投げた質問を耳にした時の、医師の悲壮な表情は今でも覚えている。同時に、ペルディの辿った運命についても、その表情を見た瞬間に察することが出来た。

「ペルディさんは、余りにも負傷が酷く、運び込まれた段階で既に……。可能な限り救命や延命に尽力しましたが……」

「そう、でしたか……」

 言葉を最後まで聞くまでも無く、私は全てが、自分が認識している現実と違わないことを了解した。

 私は寝ている間に、多くのものを失っていたのだ、と。


 それから数日後。最新の医療技術によって順調に回復した私は、復帰の目途について国際戦争管理機関に連絡するべく、看護師同伴で自分のMFを預けている拠点へと戻っていた。

「ラマシールじゃないか! もう大丈夫なのか?」

 行く先々の廊下で、同僚に声を掛けられる。

「ラマシールじゃん。ゆっくり休めた? また宜しくねー」

 部屋を移動すればそのたびに、声を掛けられた。

 その言葉の数々が嬉しく、その都度応えていたら、目的を達成するまで、相応の時間が掛かってしまった。同伴していた看護師は微笑んで見守ってくれていたが、内心では苦笑していたことだろう。

「さて、と」

 事務手続きを行う窓口で連絡事項を伝えた後、私は、看護師に一言断りを入れて、一人で格納庫へと足を運ぶ。

 廊下を歩き、渡り通路を歩き、程なく見えてきた格納庫の、内と外とを隔てる大きな扉の向こう側へと、足を踏み入れる。油の臭いと鉄の臭いが混ざった空気が、私を迎えた。

 そして、自分の愛機が駐機してあるハンガーへと歩み寄った時だった。

「え?」

 ハンガーの前に、機体を見上げる一人の若い女性が居ることに気が付いた。

その女性は、不思議そうな表情を浮かべながら機体を観察しており、時々携帯端末で情報を確認しては改めて機体を見直すと言うような動作を行っていた。

「……」

 進む足が速くなる。どうしようもなく。心の内が反映されたように。

 私は、その女性に見覚えがあった。いや、見覚えと言うよりも、見慣れたと言うべきだろうか。思わず話しかけたくなるような感覚を抱く姿。

「あの?」

 声を掛けた。

「あ、はい?」

 女性が反応する。体を向けて、私に向き直る。

 そこに居たのはペルディだった。紛れも無く彼女だった。

「ペルディ?」

 思わず声が漏れる。

 もちろん頭の中では、彼女が、私の知っている『ペルディ』とは違う人物だという事は分かっている。それでも気持ちを抑えきれなかったのだ。

「えっと……」

 私に声を掛けられた『ペルディ』は、一瞬きょとんとしたような表情を浮かべるが、数秒後、ポンと手を叩いて笑みを浮かべた。そして、私に向けて一言。


「ああ、貴方がラマシールさんね! 初めまして、ペルディです。よろしくお願いしますね」


 そう、口にした。

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