6. 男装準備

 ひいばあさんの葬式も終わった。

 元の時代ではセレモニーホールなどを使う事がほとんどだが、今回は昔ながらにうちの座敷でおこなわれた。

 そういえば家での葬式ってやつはすっかり見なくなった。

 本来は中学にやるはずだった、このひいばあさんの葬式で最後だった。


 2日間休んだ俺となつきは、オレンジの夕方から3日目にして学校に向かう。

 なつきとはこの世界に戻って以来、どうにも上手く噛み合わない。

 まあ彼女は婆さんの事で頭が一杯ってのもあるだろうが。

 

『そうよ!

 体は男、でも心は温かな女の人。

 彼女は、私の愛したともかは、あなたじゃないともか!』

 

 前に悲痛な表情で、拒絶したように叫んでいた彼女を思い出す。

 だからだろうか、俺の方からもつい距離を取ってしまう。

 それはそれで、この世界にとっていい事なのかもしれないけれど……

 とまれ、俺となつきの仲云々より、これからどうするかの方が大事だろう。


 今のところ俺の体の秘密を知っているのは、なつき、とん吉、うちの母。

 父ちゃんには隠せても、母親には即バレるだろうと話す事にした。

 痩せた時に少し小さくなったとはいえ、依然デカイ俺の胸。

 毎朝ごまかす手伝いと、怪しんだ時の父ちゃんへのフォローを母ちゃんに頼みたかったのだ。


 流石に俺の一存では危険なので、ちゃんとあの方の残滓ざんしに確認はとってある。

 だから今朝早い時間、母ちゃんにサラシを巻いてもらい、何とか男に見える格好で登校が出来る。

 その為に俺と母ちゃんは火葬場から帰って直ぐ、イイヅカへ買い物に行ったのだ。





「今度は中身じゃなくって、外見そとみが女の子?」


 婆さんの救助活動が悲しい結末に終わった後、バタバタ慌ただしくて誰からも女だとは気付かれなかったようだ。 

 だから次の日、ふたりだけの時、母だけに打ち明けた。

 母は驚くというより呆れているようだった。


「詳しくは言えんけど、あとひと月で元の体に戻るから。

 それまで誰にもバレちゃいけないんだよ」


「バレたら?」


「地球が割れるらしい」


「………!」


 母と話し合った結果、オーソドックスにサラシを巻くって事になった。

 急ぎ通夜、葬式ってあるから、その後にサラシ買いに行きましょ。って予定にもなった。

 それで諸々済ませて帰った後、父にイイヅカまで送らせて、ふたりで買い物となった訳だ。




「いや~ん、ともさん、こっちも着てみてぇ」


 可愛らしいフリルのついたワンピースを渡される。

 先程からもう何着袖を通したか。

 何故か俺のファッションショーになっている。


 サラシ買いに呉服屋行くんじゃなかったのかよ!

 さっきまで、葬式やってた家の奥さんだろ!

 そんな事を腹の中でブツブツ言っていたが……


「ああ、お母さん、娘とお洋服選びするのが夢だったのよ」


 目をキラキラ輝かせてそう言いながら、また別の服を見せてくる。

 そんな母を見ていたら、文句も言えなくなってしまったよ。

 そうだよな。

 昔から娘がほしかった。そう言ってたな。


 向こうの世界で、なつきママとはしゃぐ母の姿を思い出す。

 結局あっちじゃ、ろくに孝行も出来なかった。

 これくらいのサービス、お安い御用だな。


「お母さーん、どうかなあ?」


「いや~ん、ともちゃん、可愛すぎるうっ」


 ったくう、親バカだよ。

 

   

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